2024年7月13日
世界の紛争地周辺で、GPSなどの衛星利用測位システム (Navigation Satellite System) への妨害が深刻化している。
民間機の位置情報が狂い、航路を外れたり、着陸不能に陥る事案も発生。
紛争当事国の行為が原因とみられ、地図アプリの不具合など、近隣国の市民生活にも支障が出ている。
米国運用のGPSや、欧州のガリレオ、ロシアのグロナスなど衛星を使った測位システムは、飛行機や船舶の運航のほか、自動車の
ナビゲーション、スマートフォンのアプリなど現代の生活に欠かせない技術だ。
英フィナンシャル・タイムズ紙 (FT) のデータ分析によると、トルコの首都アンカラや黒海沿岸、エジプトのシナイ半島、
ミャンマーの国境付近では少なくとも過去半年間、GPSが不安定な状態が続いた。
妨害の主な手法には、測位システムの信号を電波で妨害し、正確な位置を把握できなくする「ジャミング (妨害行為=jamming)」と、システムの信号を偽装した電波で位置を誤認させる「スプーフィング (成り済まし行為=spoofing)」がある。
従来、軍事拠点を無人機やミサイル攻撃から守るために国家が局地的な妨害を実施していたが、ロシアのウクライナ侵攻やイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘開始以降に妨害が急増。
FTによると今年4月だけで民間機も3万機がスプーフィングの影響を受けた。
バルト海に面するロシアの飛び地カリーニングラード州の周辺やイスラエルの隣国レバノンでは特に深刻で、バルト3国のエストニアは「ロシアの敵対活動」と断定。
レバノンも、イスラエルによる妨害行為とみる。
FTは、航空事故のリスクが高まるほか、銀行や鉄道、救急のシステムに不具合が出る可能性を指摘。
レバノンやヨルダンでは配車アプリが使えず、ガザでは人道支援が滞るケースもあった。
ただ、妨害行為者の特定は困難で、規制する国際的なルールも未整備だ。
妨害手法は多様化し、対策は難しいとされる。
(2024年8月1日号掲載)