2024年7月14日
大統領選で共和党の指名候補に確定しているトランプ前大統領が7月13日に銃撃され、負傷した。
許されない事件だが、銃所持の長い歴史がある米国において、選挙に臨む公人が必然的に負うリスクに違いない。
しかも、共和党は一貫して銃所持の権利を擁護してきた。
トランプ氏はこの事件で政治テロに屈しないとの姿勢を示し、英雄視されることになるだろう。
少しでもずれていたら暗殺だった。
ペンシルベニア州の支持者集会。
乾いた発砲音が聞こえたと思えた直後に、トランプ氏は右耳を押さえながら演台の裏側に沈み込んだ。
自分のソーシャルメディアで「大量に出血し、何が起きたか理解した」と振り返った。
驚いたはずだ。
死亡した容疑者の動機は俄 (にわ) かに分からないが、政敵を相手に言いたい放題を続けてきたトランプ氏がこうした目に遭う恐れは皆無ではなかった。
そのスタイルを維持してきたのは、傍若無人な言動がエリートと対峙 (たいじ) する自分のイメージを形作り、それが求心力になってきたからに他ならない。
日頃トランプ氏を貶 (けな) すバイデン大統領が「(銃撃は) 非難されるべきだ」と寄り添ったように、衝撃を受けた米国はトランプ氏擁護一色となった。
大統領警護隊 (シークレットサービス) に囲まれ、血を流しながら拳 (こぶし) を突き上げた姿は、強い指導者を求める米国人の心を揺らした。
安倍晋三元首相が暗殺された2年前に「日本でこんなことが起きるとは心底驚いた」(国務省の日本専門家) という声をよく聞いた。
逆に言えば、全米ライフル協会 (NRA) などの政治力が強い米国においては、暗殺は何ら不思議でないという前提が社会にある。
11月の本選まで3か月。
トランプ氏との討論会で精彩を欠き、選挙戦からの撤退圧力を受けるバイデン氏の動向で米国のニュースは持ちきりだ。
そこに今回の暗殺未遂事件が起きた。
バイデン氏にとってプラスに働く要素とは思えない。
* * * * *
国際情勢に大きな影響を与える米国の大統領は過去、たびたび暗殺の標的とされてきた。
殺害されたのは奴隷制支持者に狙われた第16代リンカーン大統領や、パレード中に銃撃を受け、その様子が映像で伝えられた第35代ケネディ大統領ら計4人。
未遂事件も数多い。
1863年に奴隷解放を宣言したリンカーン大統領は1865年、首都ワシントンで観劇中に奴隷制支持の俳優に撃たれ翌日死亡した。
1881年には第20代ガーフィールド大統領が就任から約4か月後にワシントンで銃撃され、約2か月後に亡くなった。
20世紀に入ってからは1901年、第25代マッキンリー大統領がニューヨーク州の博覧会会場で無政府主義者に狙撃され、8日後に死亡。
事件後、米議会はシークレットサービスに大統領警護職務を課すことを決めた。
世界に衝撃を与えたのは、1963年のケネディ大統領の暗殺。
テキサス州ダラス市内をオープンカーでパレード中、頭を撃たれた。
日本にも衛星中継実験のテレビでショッキングな映像が流れた。
第40代レーガン大統領は1981年、ワシントンで銃撃されたが、手術で奇跡的に一命を取り留めた。
現職以外では1968年に大統領選予備選に参加していたケネディ氏の弟、ロバート・ケネディ元司法長官がロサンゼルスのホテルで撃たれ、死亡する事件も起きた。
*Picture: © Rokas Tenysi / shutterstock.com
(2024年8月1日号掲載)