Saturday, 17 May 2025

G7広島サミット閉幕、「核なき世界」へ理想共有 岸田首相:秩序堅持「使命」、中国に責任関与促す

2023年5月22日

広島市で開かれた先進7か国首脳会議 (G7広島サミット) は5月21日午後 (日本時間) に閉幕した。

岸田文雄首相は平和記念公園で議長国記者会見を開き「核兵器のない世界」実現という理想をG7で共有したと語った。

中国と対話を通じて建設的かつ安定的な関係を構築する用意があるとの認識でG7が一致したと説明。

ロシアの侵攻を受けるウクライナ情勢を含め、中国に責任ある関与を促す考えを示した。

国際秩序を堅持し、平和を守り抜く決意を世界に示すことが日本の使命だと力説した。


これに先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領がサミットに参加し、G7首脳らと討議。

首相は会見で「広島に大統領をお迎えし、核による威嚇、ましてや使用はあってはならないとのメッセージを発信することになった」と強調した。


戦争被爆地での初めてのサミットで、首相は原爆の惨禍と核廃絶の重要性を世界に訴えた。

米中覇権争いなど対立と分断が進む国際情勢下で、核軍縮へ具体的成果を出せるかどうかが問われる。


首相は会見で被爆地から核廃絶を訴え続ける重要性を指摘。

「悲惨な結末を何としても避けるため、核なき世界という未来への道を着実に歩む必要がある」と訴えた。


核保有国の米英仏を含めたG7で「核軍縮広島ビジョン」を発表し、「核なき世界という理想に向けた、今後の取り組みの基礎を確保した」と語った。

他の保有国に働きかけ、軍縮への現実的な取り組みを進めるとした。


G7とウクライナの揺るぎない連帯を示し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くとの決意を世界に示せたと表明。

「G7として一日も早くウクライナに公正かつ永続的な平和をもたらすべく努力する」と語った。


中国と率直に対話し懸念を伝える重要性にも言及し「ウクライナ情勢を含め、国際的な課題について責任ある行動を取るように求める」とした。


インドブラジルなど招待国首脳やゼレンスキー氏らとのサミット拡大会合で、他国の領土保全に対する武力行使を禁じた国連憲章の原則を支持し、力による現状変更の試みは認められないことで一致したと話した。


岸田首相は5月21日、インドのモディ首相ら8か国首脳らと原爆資料館を訪問し、慰霊碑への献花も行った。

広島市によると、核保有国インドの首相による訪問は1974年の初の核実験後初めて。


G7首脳はゼレンスキー氏との会合で外交、財政、人道、軍事支援を必要な限り提供することで一致し、平和を取り戻すとの決意も確認した。



岸田劇場 伴わぬ内実演出優先の印象も


【解説】 閉幕したG7広島サミットは、地元広島に各国首脳を招いて存在感を示し、内閣支持率の上昇につなげたい岸田首相の思惑通りの展開になった。

バイデン米大統領からウクライナのゼレンスキー大統領まで勢ぞろいし、原爆資料館を視察した今回のサミットに、首相は満足しているに違いない。


だが、内実を見ると、首相の指導力には疑問符が付く。

目指すべき方向へ前進しないどころか、後退する動きさえ見えたのではないか。


典型例が「核の傘」の正当化だ。

首相は、日本の安全保障に米国の核戦力は不可欠とする立場から、広島の名を冠した核軍縮文書「広島ビジョン」に、核兵器の役割を肯定する文言を記した。

被爆者や平和団体からは怒りの声が上がる。

3日間の「岸田劇場」は演出優先の印象が付きまとう。

LGBTを含む性的少数者への差別に寛容な日本というマイナスイメージも払拭できなかった。

東京電力福島第1原発事故の処理水放出方針に、G7が諸手 (もろて) を挙げて賛意を示した形跡もない。

日本は人権と環境で重い宿題を抱えたままだ。


G7の影響力は多極化する世界の中で低下している。

いくら中国、ロシアを牽 (けん) 制しても、効果には限りがある。

実態を裏付けるように、G7は大国のインド、ブラジルを含む新興・途上国との連携を打ち出した。

「サミットを開催した日本は世界の中心にいる」との思いに浸れる時代は、過ぎ去りつつある。



(2023年6月16日号掲載)