2023年5月25日
テキサス州南西部ユバルディの小学校で児童ら21人が殺害された銃乱射から5月24日で1年が経った。
ユバルディでは同日、遺族や市民が出席して追悼集会が開かれた。
参加者はロウソクに火を灯し、凄惨な凶行で無慈悲に命を奪われた21人の犠牲者に思いを馳せた。
人口より多くの銃が出回る米国ではその後も悲劇が繰り返され、銃撃事件は近年最悪のペースで起き続けている。
下院多数派を握る共和党の頑強な抵抗を背景に銃規制強化は進まず、遺族は強い怒りを滲 (にじ) ませる。
事件が起きたのは2022年5月24日午前11時半ごろ。
当時18歳の容疑者が殺傷能力の高い AR15型ライフル を手に校舎内に侵入し、児童19人と教師2人を殺害した。
駆けつけた当局者はすぐに教室に突入せず、容疑者を射殺したのは約1時間20分後だった。
スイス・ジュネーブ国際開発研究大学院の推計では、米国で市民が所持する銃の数は人口約3億3,000万人を上回る約3億9,000万丁 (2017年)。
米疾病対策センター (CDC) によると、米国の銃関連の死者は故意や過失による殺害行為に限っても年20,958人 (2021年)。
毎日57人ほどが命を落としている計算だ。
今年に入ってからも銃犯罪は頻発。
3月にはテネシー州ナッシュビルの小学校で乱射が起き、児童3人を含む6人が殺害された。
非営利団体「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、4人以上が死傷した銃撃事件は5月24日までに約240件で、ここ10年で最悪のペースとなっている。
「米国の子どもの死因トップは銃による暴力だ」。
バイデン大統領 (民主) は事件が起きるたび、銃規制強化の必要性を声高に訴える。
バイデン氏は21人が殺害された銃乱射事件から1年に合わせてホワイトハウスで演説し、「さらにどれだけ多くの親が最悪の悪夢に苦しめられなければならないのか」と述べ、民間向けの軍用兵器とも呼ばれるAR15型ライフルの禁止など銃規制強化の必要性を改めて訴えた。
だが、対立する共和党の背後には銃所持の権利に触ることを許さない保守派がおり、本格的な規制強化は一向に前進しないまま悲劇が繰り返されている。
「引き金を引くのは銃ではなく人間だ。我々は (銃所持の権利を認めた) 憲法修正第2条を守らなければならない」。
5月10日のCNN-TVの番組に出演したトランプ前大統領 (共和) は、規制強化に応じない姿勢を改めて強調した。
テキサス州では乱射事件後の知事選で規制強化に否定的な共和党現職が再選を果たした。
「子どもの命を守ることをなぜ最優先に考えないのか」。
ユバルディの事件で10歳の娘を奪われた母親のキンバリー・マタ・ルビオさんは理解が広がらぬ現状に「うんざりしている」と嫌悪感を露 (あら) わにした。
米国では昨年6月、28年ぶりとなる本格的な銃規制法が成立したが、超党派の合意が優先されたため、21歳に満たない購入者の犯罪歴調査の厳格化などに留まっている。
*写真は銃乱射事件後にテキサス州ユバルディ市ロブ小学校に建てられた犠牲者慰霊碑
(2023年6月16日号掲載)