2024年1月25日
パレスチナ自治区ガザ情勢をめぐり、かつてアパルトヘイト (人種隔離) 撤廃に成功した南アフリカが反戦陣営の旗手となりつつある。
親イスラエルの米欧が歯切れ悪い対応に終始するのをよそに、イスラエル軍のガザ攻撃を「ジェノサイド (民族大量虐殺)に当たる」と断罪。
南アの提訴を受けた国際司法裁判所 (International Court of Justice = ICJ) は1月26日、軍事作戦停止の暫定措置 (仮処分) を出した。
▽遺志
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラ。
自治政府が拠点を置く都市のロータリーには、拳 (こぶし) を掲げた南アの故ネルソン・マンデラ元大統領の像が立っている。
6メートル級の像は南アの最大都市ヨハネスブルクが2016年に贈ったものだ。
ICJで南ア代表の口頭弁論が行われた1月11日には、南アへの謝意を示そうと像の周辺に多数の市民が集まった。
近所の公務員 (34) は「パレスチナに寄り添ってくれる南アの友情に感激した」と語った。
20世紀、アパルトヘイトで抑圧された南アの黒人社会は、イスラエルの占領政策に抵抗するパレスチナ人の解放運動と連帯してきた。
アパルトヘイト撤廃後の1997年、マンデラ氏は演説で「パレスチナ人の自由がなければ我々の自由は不完全だ」と言い切り、改めて協力を表明した。
ICJでの口頭弁論終了後、南アのラマポーザ大統領は与党アフリカ民族会議 (African National Congress = ANC) の大会で、南アには「(ガザでの) ジェノサイドを終わらせる責任がある」と宣言。
アパルトヘイト後の国家の象徴、マンデラ氏の遺志を聴衆に呼び起こさせた。
▽勇気
マンデラ氏は2013年に死去し、同氏がかつて率いたAMCは退潮が著しい。
ラマポーザ氏には、反イスラエルで結束して党勢回復を図りたいとの思惑も滲 (にじ) む。
それでも、ラマラのイーサ・カシス市長は「米国の不興を買うことが明白な提訴を実行した南ア指導者たちの勇気は、誰も否定できない」と強調する。
ICJ訴訟で南アは「世界の親パレスチナ活動家から称賛を得た」(ニューヨーク・タイムズ紙)。
バングラデシュやナミビア、スロベニアなど非アラブ圏の国家からも賛同が集まる。
ICJが発表した暫定措置の仮処分について、カシス氏は歓迎の意を表明。
「国際社会の公式な場で、ガザの惨状を『ジェノサイド』と口にできる雰囲気を作り出しただけでも、南アの提訴には大きな意義がある」と評価している。
(2024年2月16日号掲載)