6/1/2024
4月に起きたイランによるイスラエルへの報復攻撃以降、イスラエル政府が対応に苦慮している。
イランから初の直接攻撃を受け、苛烈な反撃を求める声がある一方、後ろ盾のバイデン米政権は自制を要請。
大規模な反撃は再報復と戦火拡大のリスクを孕 (はら) み、慎重な対応に終始すれば「弱腰」との批判は必至だ。
イランにいかに反撃すべきか――。
議論百出の中、ベンヤミン・ネタニヤフ政権はジレンマに直面している。
▽紛糾
「待つ必要はない。
すぐに反撃すべき」。
イランが無人機やミサイルを発射した直後、イスラエル中部テルアビブの国防省。
戦時内閣閣議でベニー・ガンツ元国防相らが訴えた。
即座に反撃すれば、国際社会から自制要請がある前に完了できるとの考えだった。
ヨアヴ・ガラント国防相らは米国との調整が必要だとして反対。
閣議は紛糾し、結局、その日は結論に至らなかった。
その後も反撃の必要性では一致するが、時期や標的、方法をめぐり意見は割れている。
▽新局面
両国はこれまで関連船舶への攻撃やイスラエルと親イラン民兵組織の交戦など、直接衝突を避ける形で「闇の戦争」を続けてきた。
だが、在シリア・イラン大使館攻撃への報復とはいえ、今回のイランによる直接攻撃で「ゲームのルールが変わった」 (イスラエル軍元幹部)。
イランは湾岸戦争 (1991年) のイラク以来、イスラエルを攻撃した初めての国家となった。
イスラエル軍元幹部は「イランに代償を払わせなければ、次の攻撃を抑止できない」と強調する。
ただ、パレスチナ自治区ガザではイスラム組織ハマスとの戦闘が継続。
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラとも交戦状態にある中で、イラン本国とも矛 (ほこ) を交えるのは避けたいのがネタニヤフ政権の本音だ。
▽計算
同じく全面衝突を避けたいイラン。
報復攻撃で「問題は終結したと見なせる」と幕引きを図った上で「反撃があれば報復する」(アミール・アブドラヒアン外相) と牽 (けん) 制する。
米国の制裁により経済が疲弊する中、一層の悪化を懸念する市民からは「イランが直接報復すべきではなかった」と不安の声も漏れる。
要人暗殺や核関連施設への攻撃、サイバー攻撃――。
イスラエルの反撃をめぐっては、様々な可能性が取り沙汰される。
ただ、バイデン政権と協議し、再報復を招かない程度の「計算された」ものになるとみられている。
米外交ジャーナルのフォーリン・ポリシー誌 (Foreign Policy) は「両国とも沈静化を望んでいるが、政情は混乱しており、不確実性は高い」として、誤算や誤解が緊張激化を招く事態も十分に考えられるとの見方を示した。
(2024年6月16日号に掲載)