2023年11月7日
トランプ前大統領が11月6日、一族が経営する企業の資産価値を偽ったとされる訴訟で判事への「口撃」を繰り広げ、法廷を劇場化した。
敗訴すれば一族の名誉にも傷が付き「不動産王」失墜の危機となる。
米メディアは2024年大統領選に向けた「異常な戦略」と指摘するが、トランプ氏は保守派の強い支持を背景に再選へ突き進む。
▽攻防
「演説はやめなさい。質問に答えなさい」。
ニューヨーク州最高裁の法廷で、原告側の質問に延々と自説を唱える被告席のトランプ氏をアーサー・エンゴロン第1司法管区判事は何度も注意した。
トランプ氏は、過去の財務書類の経緯などに関する質問に直接答えず、自身がいかに財を成したかを誇示しながらエンゴロン氏に牙を向けた。
「判事こそ詐欺師だ」
攻防で強気を見せたのは、有利な世論があるからだ。
トランプ氏は、議会襲撃など4つの事件での起訴を逆手に取って、バイデン政権が政治的な「魔女狩り」をしていると批判し、保守派の支持を得てきた。
ニューヨーク・タイムズ紙は大統領選まで1年となった11月5日、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ氏の再対決になる場合、激戦が予想される6州のうち5州でトランプ氏が優勢だとの世論調査結果を発表した。
政治サイトのリアル・クリア・ポリティクス (RealClearPolitics = RCP) によると、共和党の候補指名争いではトランプ氏が党内支持率57.9%でトップに立ち、13.4%で2位のロン・デサンティス フロリダ州知事らライバルを大きく突き放す。
▽余裕
訴訟では、企業トランプ・オーガニゼーションの資産価値を偽り、不正に利益を得たとして、ニューヨーク州司法長官に2億5,000万ドル (約370億円) の返還を求められた。
敗訴すれば一族を象徴するマンハッタンの「トランプタワー」の運営など同州での事業が禁じられる可能性がある。
「一族の名誉を懸けた闘い」 (ワシントン・ポスト紙) を続ける中、トランプ氏にそもそも出馬資格があるのかと疑う声も広がる。
「憲法はトランプ氏が大統領になれないとしている」
コロラド州デンバーの州地裁で10月に審理が始まった訴訟で、原告側弁護士は出馬資格をめぐってこう強調した。
憲法修正第14条第3項 (Article 3 of the Fourteenth Amendment) は、憲法擁護を宣誓した後に反乱などに加わった者が官職に就くことを禁じる。
原告側は、大統領就任時に宣誓したトランプ氏が2021年の議会襲撃事件で暴徒を煽 (あお) ったとして、同項違反を訴える。
トランプ氏側は事件を扇動しておらず「反乱」でもないと反論。
「司法は選挙に干渉すべきではない」と訴えた。
こうした動きを尻目にトランプ氏は11月6日の閉廷後、お馴染みの決まり文句を発して余裕の笑みを浮かべた。
「選挙に勝ち、米国を再び偉大にする」
*Picture:© Rishikesh Roy / shutterstock.com
(2023年11月16日号掲載)