2024年7月10日
7月9日に開幕した北大西洋条約機構 (NATO) 首脳会議は、盟主・バイデン米大統領の高齢に懸念が強まり、返り咲きを狙うトランプ前大統領が陰の主役になった。
ウクライナへの軍事支援やNATOに否定的なトランプ氏が勝利する事態に備えた動きを、加盟国は加速させている。
▽先手
「民主主義の仲間が安全でなかったら、我々も安全ではいられない」。
1949年4月に12か国が北大西洋条約に調印したワシントンの講堂。
民主党のバイデン氏だが、野党共和党のレーガン元大統領の言葉も引きつつ、超党派の支持があるNATOの維持は米国にとって
「神聖な義務」だと訴えた。
首脳会議のホスト役として14分間壇上に立ったバイデン氏は大きな身振り手振りを交え、終始力強い口調だった。
イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長も壇上に招き、功績を称える勲章を授与するなど、快活さのアピールに余念がなかった。
背景には11月の大統領選がある。
世論調査で優位に立つトランプ氏は在任中と同様、米国が過度な負担を強いられているとNATOを問題視。
多額のウクライナ支援もやり玉に挙げる。
欧州には不安が漂う。
トランプ氏が当選した場合、米外交政策が内向きに転換するとの見方は根強い。
米議会ではトランプ氏の影響下にある共和党の反対でウクライナ支援の緊急予算成立が大幅に遅れ、武器供与が4か月停滞。
ロシアのウクライナ東部などでの進撃を許した。
バイデン政権は先手を打ち、6月にウクライナとの10年間の安全保障協力協定に署名。
武器供与など短期的支援と並行し、共同訓練や相互運用性の向上などに重心を移した。
「ウクライナ支援の制度化を進める」。
米当局者は言葉を慎重に選びながら、選挙結果に左右されにくい仕組みづくりが課題だと明かした。
▽不信感
欧州側ではトランプ氏が2月、防衛費を十分に負担していない加盟国を守らない考えを示唆したことで危機感が一気に高まった。
32加盟国のうち23か国が国防費を国内総生産 (GDP) 比2%とする目標を今年達成する見込みとなった。
首脳会議では、トランプ氏が復権してもウクライナ支援を続けられるよう、主導権を米国からNATOに移すことも検討される。
武器供与や軍事訓練の調整役を担うNATO司令部の設置や、400億ユーロ (約7兆円) 規模の軍事支援を続けることで合意する見通しだ。
トランプ氏は在任期間中、北朝鮮との交渉に積極的で金正恩 (キム・ジョンウン) 朝鮮労働党総書記と会談する一方、NATOへの冷淡な発言が目立った。
欧州外交筋は「我々の首脳より、北朝鮮の指導者に対する発言が友好的だった」と不信感を露 (あら) わにしていた。
▪︎ 北大西洋条約機構 (NATO):1949年に米国、カナダ、西欧諸国の計12か国がソ連に対抗するために結成した軍事同盟。
東西冷戦終了後、東欧諸国の加盟が相次いだ。集団防衛を定めた北大西洋条約第5条は、加盟国が軍事攻撃を受けた場合に全加盟国への攻撃と見なし、武力行使を含む必要な行動を直ちに取ると規定する。2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、フィンランドが2023年4月に、スウェーデンが2024年3月にそれぞれ加盟した。
*Picture: © Gints Ivuskans / shutterstock.com
(2024年8月1日号掲載)