2023年5月17日
米連邦政府の債務上限引き上げをめぐる協議が難航し、米国債がデフォルト (債務不履行) に陥る危機に直面している。民主党のジョー・バイデン大統領は野党共和党との協議を本格化させたが、来年の大統領選を前に
対立は激化。
当初、バイデン氏は先進7か国首脳会議 (G7広島サミット) を欠席する可能性に言及し、駆け引きの
材料にする姿勢も見せた。
米国の大統領がサミットを欠席する事態になれば、日本にとって大きな打撃となることから、岸田
内閣に動揺が広がった。
▽政争の具
「デフォルト回避への道筋について生産的な話ができた」。
バイデン氏は5月9日、ケビン・マッカーシー下院議長 (共和党) らをホワイトハウスに招いた会談の後、こう述べた。
日本とは違い、米国では法律で債務上限が決められ、議会が国債発行残高の限度額の水準を決める。
かつては上限額に達するとほぼ自動的に引き上げを承認したが、与野党の対立激化とともに、近年は議会が引き上げを「政争の具」にする展開が目立つ。
デフォルト懸念が最も緊迫したのはバラク・オバマ政権時代の2011年。
当時、野党との交渉を担ったのは副大統領だったバイデン氏。
「今回も問題解決へ楽観的だ」。
記者たちの質問に、強気な姿勢を繰り返した。
▽チキンレース
借入限度額は今年1月に現在の上限に達した。
ジャネット・イエレン財務長官は「デフォルトにならなくても、債務上限をめぐる瀬戸際の交渉は深刻な経済的負担をもたらす可能性がある」と強調。
国債で賄った借金が返済できなくなれば、米国史上初のデフォルトが現実味を帯びる。
金融市場の混乱は必至で、ドルの信用も失墜する。
新たな借り入れには議会による上限引き上げなどが必要だが、議会下院で多数派を握る野党共和党は、条件としてバイデン政権の主要施策の撤回を含む歳出削減を要求。
民主党政権は無条件の引き上げを求め、平行線となっている。
「経済的大惨事」 (イエレン氏) が警戒される背景には、米政治の分断で、与野党内での足並みすら乱れているとの事情がある。
昨年の中間選挙で下院の過半数を押さえた共和党は、マッカーシー議長の選出に計15回も投票を重ねた。
ドナルド・トランプ前大統領に近い保守強硬派が抵抗を続けたためだ。
上限引き上げの前提として歳出削減を求めるマッカーシー氏は容易に政権と妥協できない圧力を受けている。
バイデン氏も自身が再選を目指す大統領選を前に、与党内での受けが悪い歳出削減には応じがたく、「チキンレース」の様相を帯びる。
▽再会談
バイデン大統領は5月16日、マッカーシー下院議長らと会談し、協議を継続することで一致した。
政権側と野党マッカーシー氏側の事務レベルで協議する。
バイデン氏は会談後の声明で、G7広島サミット出席などの外遊から帰国後に再会談する意向を表明した。
債務上限は今年1月に最大限度の約31兆4,000億ドル (約4,300兆円) に到達した。
バイデン氏は会談で「どちらも望むものの全てを手に入れることはできないと認識すれば、合意への道が開かれる」と指摘。
マッカーシー氏も会談後、記者団に「5月第3週末までに合意することは可能だ」との見方を示した。
(2023年6月1日号掲載)