Thursday, 21 November 2024

収益認識基準のコンバージェンスへ 改定公開草案公表 (2012.3.1)

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nagano_face.jpg   永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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収益認識基準のコンバージェンスへ
改定公開草案公表
 

去る2011年11月14日、国際会計基準審議会 (IASB) と米国財務会計基準審議会 (FASB) は、収益認識基準のコンバージェンス (収斂) を目指す改訂公開草案「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。

この改訂公開草案は、2010年6月に公表された公開草案のコアとなる原則を踏襲していますが、その具体的な適用方法に関して改訂がなされています。

今回は、この改訂公開草案に基づいた収益認識 (Revenue recognition) について考察します。
 

公開草案の目的
 

収益 (Revenue) は、財務諸表の利用者にとって、非常に重要な指標であるにもかかわらず、収益認識の基準が国際財務報告基準 (IFRS) とアメリカ会計基準 (U.S.GAAP) との間で異なっています。

そのため、IASBとFASBは共同プロジェクトを立ち上げ、収益認識に関する原則を明確化し、 IFRS 及びUS GAAPのための共通の収益基準を開発することとしました。

それは次のようなものとなります。
 

  1. 現行の収益認識基準及び実務の不整合及び欠点を取り除く。

     
  2. 収益認識の論点を取り扱うためのより堅牢なフレームワークを提供する。

     
  3. 企業間、産業間、法域間及び資本市場間における収益認識実務の比較可能性を向上させる。

     
  4. 開示規定を改善することにより、財務諸表の利用者により有用な情報を提供する。

     
  5. 企業が参照しなければならない定めの数を減らすことによって、財務諸表の表示を簡素化する。

つまり、現行の複雑で、様々な基準を参照しなければならない収益認識の基準が1つにまとまり、簡素化されることになります。
 

収益認識の基本原則

この基準案においてコアとなる原則では、企業は、顧客への約束された財またはサービスの移転を描写するように、その財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込まれる対価を反映する金額により、収益を認識しなければなりません。

本基準案の適用にあたり、企業は次のことを行わなければなりません。
 

  1. 顧客との契約を識別する。

  2. 契約における別個の履行義務を識別する。

  3. 取引価格を算定する。

  4. 当該取引価格を別個の履行義務に配分する。

  5. 企業がそれぞれの履行義務を充足した時に (または充足するにつれ)収益を認識する。

 

履行義務の充足

今回の改定公開草案では、上記2-2の履行義務について、徐々に (over time) 充足される場合と、一時期 (at a point in time) に充足される場合を明確に区別しています。

そして、徐々に充足されると考えられる場合の要件を定め、その要件に該当する場合は、充足するにつれ収益を認識することを容認します。

一方、その要件に該当しない場合は、一時期に充足されるとし、充足されたその一時期において収益を認識することになります。
 

徐々に履行義務が充足され収益が認識される場合
 

以下のような要件を満たした場合、徐々に履行義務が充足され、収益が認識されます。

企業が財またはサービスの支配を徐々に移転して、徐々に履行義務が充足されて収益を認識するには、少なくとも下記の2つの要件基準の内1つが満たされる必要があります。
 

  1. 企業の履行が、顧客が支配している状態で資産を創造またはその価値を高める場合 (例:仕掛品)。


  2. 企業の履行が、その企業にとって代替的使用が可能な資産を創出せず、少なくとも下記の要件基準の1つを満たす場合。
  1. 顧客が企業の履行に応じて、その企業の履行の便益を同時に受け取り、そして消費する。
  2. 企業が現時点その日までに完成した業務に関して、仮に他の企業が残りの義務を遂行するとしても当該他の企業が実質的に再実施する必要がない。
  3. 企業は、現時点までの履行に対する、履行完了の日までの支払いを受ける権利を有していて、契約が約束通り遂行されると期待できる。

 

一時期に履行義務が充足され収益が認識される場合
 

上記4.の徐々に履行義務が充足される場合の要件を満たさない場合は、一時期に履行義務が充足され、収益が認識されることになります。

その一時期は、顧客が財またはサービスの支配を獲得したときとされ、その指標 (indicator) には次のものが含まれます。
 

  1. 企業が支払いを受ける権利を有している。
  2. 顧客が法的所有権を有している。
  3. 企業が顧客に物理的な占有を移転している。
  4. 顧客が資産の所有から来る主要なリスクと便益を有している。
  5. 顧客が資産を受け入れた。

なお、5-4の「所有にかかるリスクと便益」は、今回の改訂で追加された指標です。
 

(工事)進行基準への影響

2010年6月に公表された公開草案においては、徐々に履行義務が充足され収益が認識される場合に関して明確な規定がなかったため、(工事) 進行基準は実質的に廃止されることになるという議論もありました。

しかし、今回の改定公開草案による明確化により、収益の認識には履行義務の充足が必要であるというコアとなる原則 (上記2-5) は維持するものの、実質的に (工事) 進行基準と同じように収益が認識される例を判断しやすくなりました。

また、更に進んで、契約内容を構成し、徐々に収益を認識するのか、一時期に収益を認識するのかを積極的に選択していくような作業も、要件の明確化により容易になったのではないかと思われます。
 

なお、2010年6月の公開草案に対しては、建設業関係者から様々なコメントがあり、それが今回の改訂公開草案に反映されています。

今回の改訂公開草案に関しても、2012年3月13日までコメントを受け付けており、それを踏まえて更なる改訂が予想されるため、今後の議論を注視していく必要があります。
 

*参考リンク
 

・2010年6月公開草案
 

www.fasb.org/cs/BlobServer?blobcol=urldata&blobtable=MungoBlobs&blobkey=id&blobwhere=1175820852272&blobheader=application%2Fpdf
 

・2011年11月改訂公開草案
 

www.fasb.org/cs/BlobServer?blobcol=urldata&blobtable=MungoBlobs&blobkey=id&blobwhere=1175823318057&blobheader=application%2Fpdf
 

・改訂公開草案に対するコメント受付サイト
 

www.fafsurveys.org/se.ashx?s=4CA36E920044303A


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
 
(2012年3月1日号掲載)

 

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