Wednesday, 05 February 2025

永住権と市民権の放棄 (2013.1.16)

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ishinabe_face.gif石鍋 賢子

米国カリフォルニア州弁護士

上智大学外国語学部英語学科出身。ビジネス系の移民法専門弁護士として10 年の経験を持つ。グレイ・ケリー・ウェア&フリーデンリッチ、ララビー&アソシエーツ等法律事務所勤務を経て、5 年前に独立し、事務所設立。

米国弁護士会(ABA)、サンディエゴ弁護士会(SDCBA), 米国移民法弁護士会(AILA) 会員。サンディエゴ在住19 年。

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永住権と市民権の放棄

Q 永住権保持者です。

今後、日本に住みたいので、権利を放棄しようかと思っていますが、簡単にできるのでしょうか?

 

A 永住権を持っていても、米国外の滞在期間が12か月を超えると、放棄したとみなされます。

一方で永住民は、全世界収入に関して、アメリカの税務当局へ申告義務があります。

その他の事情も含め、米国外滞在期間が12か月を経過しなくても、永住権を放棄したいという場合は、永住権放棄のためのフォーム (I-407=移民局サイトよりダウンロード可、申請料はなし) に記入し、グリーンカードとともに、米国大使館または領事館へ提出します。

これは、放棄が自主的で、意図的であることを確認するための書類です。

東京のアメリカ大使館では、休館日を除き、毎週金曜日の午前中に、予約不要でこの申し出を受け付けてもらえます。

領事との面接後、放棄が受理されると、その場で永住権を喪失したことになります。

ですが、納税義務が発生する場合がありますので、手続きを行う前に、税法上の影響について専門家に相談しておくことをお勧めします。

 

 

Q 将来は渡米できますか?

 

A 犯罪歴その他、入国を拒否されるような理由がなければ、他の外国人旅行客と同様、ESTAまたはビザ取得により、普通にアメリカへ入国ができます。

また、永住権は放棄したいが、赴任が決まっているという場合、放棄と同時に、非移民ビザの申請をすることもできます。

将来、状況が変わって、家族または雇用者のスポンサーなどにより条件が満たされれば、再度永住権を取得することも可能です。

その場合、過去に永住権を持っていて、それを一度放棄したという記録は残っていますが、政府による剥奪などではなく、どのような理由であれ、自主的に放棄したのであれば、それが不利になるということは特にありません。

ただ、同じような手続きを再びやり直さなければならないということです。

 

 

Q アメリカで生まれたため二重国籍ですが、市民権を放棄することもできますか?

 

A アメリカ市民権保持者も、それが本人の自主的、意図的な選択であれば、アメリカ国外の大使館または領事館に所定の宣誓書 (DS-4080フォーム) を提出することにより、放棄することができます。

ただし、市民権の場合は、一度放棄すれば再度取得することはできないこと、市民権を取得する人に比べて、放棄する人は圧倒的少数派 (とはいえ、2011年=3,805人、2012年=8,000人に上るとの推定) であることなどから、重大な決断として扱われ、面接は日数をあけて再度行われます。

2度目の面接で本人の意図をもう一度確認された上、放棄の宣誓書を提出し、領事と本人のサイン入りの宣誓書を受け取って、それが正式な国籍放棄の証拠となります。

この書類があれば、外国人としてビザの申請を同時に行うことも可能です。

後日、国務省から国籍離脱に関する書類が送られてきます。

手続きについては以上で、特に複雑なことはありませんが、やはり、税法上の影響について事前に確認しておかれるべきでしょう。

ところで、アメリカ国籍者も、二重国籍者やアメリカ国外に住んでいる場合でも、アメリカ市民として米税務当局へ全世界収入の申告義務があります。

本人が知らなかったりして、うやむやになっている場合ももちろん多数あり、アメリカに住んでいなければ、そのままでも何も起こらないかもしれませんが、違法であることには違いありません。

お金持ちの投資家や、ビジネスマンなどの国籍放棄が報道されていますが、一般人でも、こういった申告義務の煩わしさを理由に放棄を決意する人も多いようです。

この記事は、参考として一般的な概要をお伝えすることを目的としたものであり、個々のケースに対する法律のアドバイスではありません。

  (2013年1月16日号掲載)

 

 

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