曽 碧光
米国中医薬研究所所長 1932年台湾に生まれる。東京大学農芸化学修士、米国カンサス大学微生物学修士、東京大学薬学博士、 元米国コネチカット大学病理学助教授、第1 回世界中西医結合大会審査委員、セント・エリザベス病院 (ボストン) 筋ジストロフィー主任研究員、ドライ・アイ眼科研究所生化学顧問、元米国漢方研究所所長、現米国中医薬研究所所長。 ご質問、ご連絡はこちらまで |
|||
八味丸 | |||
Q : 八味丸は白内障の予防や治療および前立腺肥大症によく常用されている漢方薬ですが、老化防止の漢方薬とも言われているのはなぜでしょうか。
A : 八味丸は八味地黄丸の略称で、漢方の聖典とも言われている『金匱要略』に記載されており、別名腎気丸とも呼ばれています。 漢方医学でいう腎とは、腎臓機能を指すだけではなく、生殖機能やホルモン分泌と副腎の働きなども含まれています。 八味丸は腎気丸と呼ばれているように、腎臓機能、生殖機能やホルモン分泌など、老化に伴い衰退する機能を促進増強する効果があるので、よく老化防止に使われるようになりました。 他に、老化に関連のある免疫作用を調べてみると、八味丸を構成している8つの生薬、地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子の総てに免疫増強効果があり、山薬と地黄にはインターフェロン誘起作用があることが証明されています。 インターフェロンは我々の身体の中で作られる蛋白で、病気に抵抗する物質です。 免疫力は20代をピークに、年を取るとともに下降しますので、免疫増強効果は八味丸の老化防止のひとつの役割と考えられます。 活性酸素が炎症、発癌、動脈硬化を起こす役割を演じていることは、近年来よく報告されています。 活性酸素の体内での増強は老化に繋がることもよく知られています。 従って、八味丸が老化防止の漢方薬であるならば、活性酸素を除去する作用があるものと考えられます。 日本での研究の結果、八味丸が活性酸素を除去する酵素SODの活性を促進することが証明され、その構成生薬である地黄、沢瀉、山薬、桂枝、牡丹皮、山茱萸各自にも活性酸素を除去する作用があることが分かりました。 また、男性の生殖器で合成される性腺ホルモンのテストステロンは年を取るに従ってだんだん減少するので、老化と関連があると考えられています。 八味丸にテストステロンの分泌を刺激促進する作用があることが、近年の研究で分かりました(Am. J. Chinese Med. XVI。 93-105, 1988)。 従って、八味丸は免疫増強作用、抗酸化作用、テストステロン分泌など老化と深い関連性をもつ機能を促進増強することから、老化防止の漢方薬という名が付いたものと考えられます。
|
|||
(2012年2月1日号掲載) |