曽 碧光
米国中医薬研究所所長 1932年台湾に生まれる。東京大学農芸化学修士、米国カンサス大学微生物学修士、東京大学薬学博士、 元米国コネチカット大学病理学助教授、第1 回世界中西医結合大会審査委員、セント・エリザベス病院 (ボストン) 筋ジストロフィー主任研究員、ドライ・アイ眼科研究所生化学顧問、元米国漢方研究所所長、現米国中医薬研究所所長。 ご質問、ご連絡はこちらまで |
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耳鳴、頭痛と釣藤散 | |||
Q : 私は70歳の男性でよく耳鳴に悩まされています。 どの漢方薬を使ったらいいのでしょうか。 また、常習頭痛に悩まされている友人がいますので、常習頭痛に効く漢方薬もお教えください。
A : 1981年に釣藤散が難治性の耳鳴の治療に効果があることが医学雑誌耳鼻臨床(耳鼻臨床74, 1775, 1981)に発表されてから、病院やクリニックで耳鳴の治療に釣藤散がよく使われるようになりました。 耳鳴は内耳の感覚細胞が退行変性する課程で、異常興奮が生ずるためと考えられています。 高血圧や動脈硬化が関与している例もあります。 一般に、耳鳴の訴えは執拗で、耳鼻科医が治療に最も難渋するものです。 治療でトランキライザー(精神安定剤)が用いられていますが、薬物依存が生じやすいので、副作用の少ない漢方薬に目がつけられ、広く用いられるようになりました。 一般には釣藤散1日7.5gを長期投与することによって、耳鳴が気にならなくなることが多いと報告されています。 また、精神安定剤的効果のある安神湯を釣藤散と一緒に使用すると効果がより早く上がったという報告もありますので、釣藤散と安神湯の併用も試みてください。 常習頭痛の治療にも釣藤散がよく使われているので、実例を挙げて説明致します。 釣藤散は漢方書『本事方』に頭痛を治すと記述されているので、古くから頭痛の漢方薬として使われてきました。 Aさんという40歳の男性が、医者の友人からの紹介で、幾年も頭痛に悩まされていて、いろいろと病院を回っても全く効果がないので、常習頭痛に効く漢方薬はないかと相談に来ました。 釣藤散を1回2錠(1g)、1日4回取るように指示しました。 服用してから2か月すると、毎日頭が重くて憂うつの気分が少しずつ消失し、時々起こる頭の激痛の回数も減ったと報告してきました。 その後3か月が過ぎ、いつも重々しく鈍痛のある頭が最近はすっきりして気分がよく、頭の激痛もほとんど起こらなくなったと嬉しそうな声で電話してきました。 「先生、奇跡ですよ。大変有難うございました」と興奮した声で礼を言って電話を切りました。 私も「本当によかった」と心から嬉しく思いました。
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(2012年3月1日号掲載) |