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永野 文久
米国公認会計士 昭和17 年生まれ。 昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
ご質問、ご連絡はこちらまで昭和58 年米国公認会計士。 |
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不動産投資と税務申告 EB-5永住権プログラム | ||
EB-5 プログラムとは、米国内に一定額以上の投資を行うことで、米国永住権を取得することができる米国政府の移民ビザプログラムです。 審査期間が雇用を基礎とした移民ビザよりも一般に短いと言われており、リーマンショック以降の円高もあって、この制度を利用して永住権を取得した日本人も増加しているようです。 今回は、このEB-5による永住権を取得した場合に、注意する税務上のポイントについて解説します。
Schedule K-1 EB-5では主にリミッテッドパートナーシップ (LP) と呼ばれる法人形態に投資という形を取ることが多く、投資する方はその法人のリミッテッドパートナーとなります。 LP は少なくとも1人または1法人以上のジェネラルパートナーとリミッテッドパートナーから成り立ち、ジェネラルパートナーはLPの経営に関与し、LPに対する全責任を負うのに対し、リミッテッドパートナーの責任はあくまでも投資額に制限されるというものです。 LPに投資した場合、LPの損益のうち、自身の損益分配の割合に応じた損益が Schedule K-1というForm にて毎年報告されることになります。 これを受け取った投資者は、自身の確定申告書である Form 1040 の Schedule E 等にてその損益を報告する必要が生じます。 例:LP の年間収支が賃貸収支 (Net) で $100,000、 損益分配割合が1% であったとすると、Schedule K-1 には $1,000 の Net Rent Income が報告され、それを受け取った投資家は、実際に現金を受け取ったか否かに関わらず、自身の Form 1040 の Schedule E にて$1,000 の賃貸所得を申告する。
永住権取得による米国居住者扱いの開始 日本在住の日本国籍の方が、EB-5等で永住権を取得した場合、米国税務の上で、非居住者 → 居住者への変化が起きます。 当然ながら、この影響を考慮すべきです。まず、居住者扱いの開始ですが、日本在住の日本国籍の方 (米国滞在がなく、 Substantial Presence Test によって米国税法上居住者とならない方) である場合、永住権を取得して最初に米国に入国した時点から米国居住者となります (Green Card Test, IRC 7701 (b) (2) (A) (ii))。 それ以降については、永住権を放棄するまでは米国税法上居住者となり、全世界の所得が報告対象となります。 特に、日本で課税上の優遇措置を受ける退職金や年金などについても米国で課税対象となるため、その影響も十分に考慮に入れる必要があります。 例: 永住権取得後、米国に渡米した後に、日本の元勤務先からの退職金を受け取った。この場合、退職金は米国源泉所得ではないが、米国居住者 であるため、米国にて課税対象となる。
米国税法上の居住者:特に注意すべき報告義務 ① FBAR (Treasury Department Form 90-22.1) 米国外にある金融資産を報告するフォームで合計残高が$10,000を超える場合は、米国財務省まで毎年6月30日までに申告します。これを怠るとペナルティは$10,000 /違反となっており、意図的な未報告の場合は、残高の50%/年のペナルティや刑法上の罰則にも発展する可能性があります。
② IRS Form 8938 2011年の申告書から適用されたフォームで、①と同じく米国外金融資産を報告しますが、こちらは確定申告書に添付し、申告が必要な残高は、米国でのファイリングステータスと米国に居住しているかなどによって異なります。Form 8938 を申告書の期限 (延長を含む) までに提出しない場合、そのペナルティは$10,000 となっています。
③ IRS Form 5471 米国外の会社の株式を10%以上持つ場合、Form 5471を確定申告書に添付し、その会社の情報を開示する必要があります。この報告を申告書の期限 (延長申請を含む) までに提出しない場合、そのペナルティは$10,000 となっています。
④ IRS Form 8621 米国外のMutual Fund (投資信託) に投資している場合などで、投資先が PFIC (Passive Foreign Investment Company) に該当するときは、一定の場合 Form 8621 を確定申告書に添付し、当該投資を報告します。
⑤ IRS Form 3520 米国非居住者から一定額以上の財産の贈与、相続を受けた場合、Form 3520 にて報告義務が生じます。この報告を所得税または相続税の申告期限 (延長を含む) までに確定申告書とは別に指定されたIRSセンターに提出しない場合、そのペナルティは$10,000または贈与、相続額の5%のいずれか大きい方等となっています。
結 論 上記のように、投資による EB-5 プログラム等で米国永住権を得て、米国に移住する場合、様々な税務上の留意点が生じます。 特に、米国税務上、米国非居住者 → 米国居住者となる際に、税務上の問題点、または将来に対する影響などを十分考慮する必要があると言えます。 後で「知らなかった」ということにならないように、事前に専門家に相談することを推奨します。 なお、EB-5プログラムは時限立法であり、現在のところ2012年9月末で終了することになっています。 しかし、このプログラムは導入された1993年以来、何度も延長されており、最近の延長は2009年に行われました。 現在、議会では時限立法でなく恒久化する案も検討されています。 詳細な情報については EB-5 プログラムに詳しい移民弁護士等に確認してください。 |
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※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。 | ||
(2012年6月1日号掲載) |