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永野 文久
米国公認会計士 昭和17 年生まれ。 昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
ご質問、ご連絡はこちらまで昭和58 年米国公認会計士。 |
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外国金融資産の情報開示強化(Form 8938) | ||
現在、米国では納税義務者による海外の銀行口座や投資の隠匿の懸念が絶えません。 米国政府はこのような外国金融資産からの課税所得の把握を強化する対策を着実に打ち出してきています。 その対策の1つとして、内国歳入庁 (以下IRS) から Form 8938、「特定外国金融資産のステートメント=Statement of Specified Foreign Financial Assets」のドラフトが最近発表されました。 これは米国納税義務者が海外の金融機関等に保有する資産から得た所得を適正に開示し、納税するために導入された書類です。 従来の Form TD F90-22.1(通称「FBAR」)とは別であり、より強制力のあるフォームです。 背景には、2010年3月に成立した「雇用回復のための採用支援法、Hiring Incentives to Restore Employment Act of 2010 (HIRE Act)」があります。 この法律自体は文字通り雇用対策、景気対策を目的としていますが、その財源確保の一環として「外国口座税務コンプライアンス法=Foreign Account Tax Compliance Act (FATCA)」が盛り込まれており、今回の書類はそれに基づいています。 今月はこのForm 8938について概説します。
開示対象となる特定外国金融資産と内容 そして、それらの特定外国金融資産をある年度末において5万ドル、もしくは年度中において10万ドルを超えて保有する個人は、所得税申告書にForm 8938の添付が義務付けられることとなります。 尚、この場合の10万ドルとは当該年度において一度でも時点で添付義務が発生することを意味します。 書類の記載内容としては、特定外国金融資産が存在する金融機関の所在地や年間最高残高などの情報、及びそれらの金融資産から発生した利息、配当、ロイヤリティー等の所得の記入が求められます。 また、それらの所得が米国申告書のどこに開示されているのか (Form、Schedule、Amount) を具体的に記載しなければならないという、かなり詳細な開示を要求されます。 このフォームの添付は米国市民に限定されず、米国に申告書を提出する義務のある個人全てが対象となります。
海外金融機関の協力参加の義務化 US taxpayer の海外金融資産を管理するすべて世界中のFFIについては、IRSと協力関係を結び、以下を協力しなければなりません。
もし、海外金融機関がIRSとこうしたことを拒否した場合、それらFFIへ送金される US Source Income (米国源泉所得) については、IRSは強制的に30%源泉徴収の対象としています。IRSによるかなり強引な手法と言えます。
適用開始時期 よって暦年で申告書を作成する個人の所得税の場合、2011年度の申告書からこの書類の添付が必要となります。 しかし、現時点ではこの添付書類がドラフト段階にあるため、確定した段階で添付開始となる予定です。 ドラフトは今年の6月に公表されているため、次の2011年度の申告書から添付開始となる可能性が高いと考えられます。 フォームの確定が先延ばしになってしまった場合であっても、申告書への添付は遡及 (そきゅ0う) して必要となります。 例えば、フォームが2012年10月に確定した場合には、2012年度の申告書には2011年度及び2012年度分の2年分の Form 8938 を添付することになります。
ペナルティー また、外国金融資産からの所得の過小申告額に対して40%のペナルティーが科せられます。
外国預金口座報告義務との関係 しかし、報告対象となる金額は FBAR の場合は1万ドル超です。 また、FBAR の申告先は個人に加えて法人対象も明確化されています。 一方、FBARでは海外金融機関による強制的な情報開示の義務はなく、また受取利息などの所得がどの申告書に転記されているかを開示することも要求されていません。 このため Form 8938 の登場によりFBARは消滅するわけではなく、該当者は両方の書類を申告するという煩雑な業務が増える結果となるでしょう。 *参考:IRSのForm 8938のドラフト |
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※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。 | ||
(2011年12月1日号掲載) |