ビジネス評価をするための アプローチ (2012.8.1)

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nagano_face.jpg   永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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ビジネス評価をするためのアプローチ 
 

最近の日系企業は、震災後の日本国内市場の不安感および円高対応から、積極的に海外に進出する動きが見られます。

米国においても、始めからの新会社を設立するよりは、既存の組織と販売ルートを持っている現地企業を買収、M&Aを行うというトレンドが再び脚光を浴びています。

このような企業買収の際、買収先の価値を決める手法が大変重要となります。

今回は、企業価値を決めるためのアプローチについて、ポイント解説します。
 

ビジネス評価の分類
 

ビジネス評価とは、簡単に言うならば、あらゆる角度からみた企業価値を金額で表すことです。

なお、本稿での企業価値とは株主価値のみならず、それに有利子負債を加えた企業総体しての価値を指しています。

実際にビジネス評価をする上では、法人は事業の実体がつかみにくく、しかも、ビジネスの特性に応じた評価が必要となることから、企業の価値を1つの方法で決めることは非常に難しいものです。

一般的に企業価値の計算アプローチ手法としては、将来の収益性を基礎とする ① インカム・アプローチ (収益還元法、ディスカウント・キャッシュ・フロー法等)、実際の売買市場で成立している類似企業の株価を基礎とする ② マーケット・アプローチ (類似業種比準法、マルチプル法等)、過年度の蓄積を基礎とする ③ アセットベース・アプローチ (清算価値法、修正簿価純資産法等) の3種類が挙げられます。

通常、企業価値の算定に際しては、これらのアプローチに基づく評価のいずれか、または、複数の評価手法をブレンドして企業価値を算定することになります。
 

① インカム・アプローチ    

このアプローチは、基本的な価値評価原理に一番近いと言われています。

インカムという言葉を使っていますが、それは財務諸表で使っている過去の “純利益” というものではなく、将来、オーナーにもたらすであろう利益を意味します。ビジネスというものは、現在、持っている資産をうまく活用し、そこから新しい価値を生み出すことです。

その観点から、そのビジネスが継続的に価値を生み出すと定義づけ、今後、そのビジネスが生み出すであろう付加価値を基礎とするアプローチ手法です。

具体的には将来の業績を予測し、毎年生み出される新たなキャッシュを現在価値に引き戻し、その総額を企業価値とします。

インカムアプローチの代表的な手法であるDCF法は、将来にわたって得られるキャッシュフローを現在価値に割引いた額となるため、ファイナンス理論に最も忠実な方法とも考えられています。

また、会計上の予想利益を資本還元率によって割り引くことで企業価値を算定する手法として収益還元法というものもありますが、一定の成長率をもって評価する方法であるためDCF法に比べて評価額が硬直的となりやすく、予想利益が変動することが想定される場合には効果的な評価方法とは言えません。

インカム・アプローチは、将来の予測を基礎としているので、評価者の主観が多く入ると言われています。
 

②マーケット・アプローチ

既に証券市場で売買されている企業の株式について、それが企業の価値を表していると考える手法です。

基本的に、買い手は必要以上にお金を払いたくなく、売り手はできるだけ多くもらいたいという需要と供給のバランスで、住宅物件の売買に似た評価方法でもあり、時価が主要な要素となります。

マーケット・アプローチでは、株式の時価総額と負債の金額を合わせて企業価値とします。

また上場されていない企業については、同業種の上場企業を参照し、その指標 (総資本利益率、株主資本利益率、純資産キャッシュフロー倍率、支払利息・償却前・税引き前利益倍率等) を参考に企業価値を類推する方法が取られ、株価倍率法 (マルチプル法) と呼ばれています。
 

③アセットベース・アプローチ

当該企業を清算して、持っている資産を売り払うといくらになるかという観点から価値を算出する手法ですが、会計上の資産価額は会計ルールに沿って計上されているので、資産の売却価額とは大きく異なる場合も多いようです。

例えば、固定資産の建物や設備は、会計上は定額法や定率法に基づき、減価償却した金額が計上されています。

一方、それら資産の売却価値は売却時の市場によって大きく左右されるので、差が大きく開く場合があります。

また、暖簾を考慮する場合には、企業全体の事業評価が必要となり、見積もり要素が介在することになります。

アセットベース・アプローチは純資産法とも呼ばれ、将来のキャッシュ・フローの見積もりを伴わない手法であり、比較的客観的があるとされます。

しかし、通常、企業が買収される場合は、その収益力が評価されていることが多く、企業の解体精算を前提にして評価する場合、設立後まもなく収益の安定しない企業を評価する場合等を除き、単独で利用されることは少ないと言えます。
 

アプローチの妥当性

どのアプローチが妥当かは、評価の対象となっている企業の業務、財務内容やそれが置かれている外部環境に依存します。

その見方は、買い手と売り手によっても変わるでしょう。

そのため、冒頭に述べたように、複数のアプローチをブレンドして評価する場合も多くなっています。

また、1つのアプローチにおいても、見積もり項目に関する見解の相違で評価額は相当変化します。

このように1つの正解がないからこそ、交渉に当たっては、相手に対してどれだけ説得力のある評価方法を用いて価値を算出したかが重要になります。

企業買収では、アプローチの選択、キャッシュ・フローや割引率の見積もり、類似会社の選択と倍率調整、資産の時価の算定等にあたり、会計士や公認鑑定士などの専門家に相談して交渉力を付けることが肝要です。


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
 
(2012年8月1日号掲載)

 

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