新型コロナウイルス感染症の検査 (Tests for COVID-19)(2020.6.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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新型コロナウイルス感染症の検査


(Tests for COVID-19)

       
       

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) は世界中に蔓延して、約500万人もの感染者、32.6万人の死亡者が出ています (5月20日現在)。

アメリカでは、154万人の感染者と9万人の死亡者が出ています。

このパンデミックの当初より、新型コロナウイルスを診断する方法は、PCR検査という新型コロナウイルス (SARS-COV-2) のRNA核酸を増殖する方法でした。

PCR検査は検査自体が煩雑なため、普及するのに時間がかかりましたが、今は非常に多くのPCR検査が世界中で行われています。

現時点では、このPCR検査以外にもいくつかの検査方法が存在しますので、それぞれの検査について簡単に説明をします。

 

PCR検査法

今回の新型コロナ感染症で非常に有名になった検査法です。

現時点でも世界中で最も一般的な新型コロナ感染症の診断法になっています。

PCRはポリメラーゼ連鎖反応の略で、鼻や喉の奥に綿棒を入れ、ぬぐい液を取って、ウイルスの存在を調べる検査です。

最近は、唾液で検査する方法もあります。

検体を採取する際に、採取者に感染の危険が伴うため、マスク、ガウン、フェイスシールドやゴーグル、手袋などを着用して採取を行います。

PCR検査法は、DNA (遺伝子) ポリメラーゼという酵素と温度調整を利用して、DNAを増殖させる方法で、新型コロナウイルス特有の遺伝子を増やし、判定をします。

新型コロナウイルスはRNA (DNAから合成される) ウイルスなので、RNAをDNAに変換した上で、PCRでDNAを増やしてから判定します。

ウイルスの遺伝子を増やす必要があるため時間がかかります。

時間と手間のかかる検査ですが、

全自動PCR検査器も存在し、従来よりは比較的短い時間で結果を判定できるようになっています。

日本でもPSS社というところが5年前から世界に全自動PCR検査器を輸出して、今年、駐日フランス大使から礼状をもらっていますが、日本国内ではまだ承認されておらず、まだ使われていません。

 

 

抗原迅速検査

抗原抗体反応を利用した検査法で、新型コロナウイルスの抗原 (特徴的なタンパク質) を検出する簡易検査キットです。

イムノクロマト法という方法を使いますが、酵素免疫測定法という2つの免疫法を組み合わせているキットもあります。

今、感染しているかどうかを調べます。鼻腔や咽頭ぬぐい液を検体として使い、30分以内で判定可能な迅速検査です。

現存するインフルエンザ検査や溶連菌検査と同じような検査方法です。

現時点では検査精度はあまり高くなく、ウイルスのタンパク質量が少ないと、感染していても検査上陰性となる「偽陰性」となる可能性があります。

その場合、PCR検査が必要になります。

 

 

抗体検査

ウイルスや細菌などに感染すると体内の免疫防御システムが働き、ウイルスや細菌に対して闘う抗体が作られます。

感染してしばらくすると、まずIgM抗体が作られ、それからIgG抗体が作られます。

これら血液中のIgM抗体やIgG抗体を測定すると、ウイルスや細菌に感染している (または感染していた) ことが分かります。

感染直後では陽性にならないため、新型コロナ感染症では、感染しているかどうかの判定にはあまり使えないですが、感染した有無を調べることはできます。

新型コロナの感染症では、感染して約1週間でIgM抗体が作られ、約2週間してIgG抗体が作られます。

通常の血液検査と迅速検査があります。最近許可された抗体検査では検査精度のかなり高いものがあります。


 

 

血液検査

血液検査では、新型コロナ感染症のIgM抗体とIgG抗体の検査以外にも間接的な評価を行う方法もあります。

新型コロナ感染があると、白血球やリンパ球の減少、血小板の減少、CRP (C-反応タンパク) の上昇、肝機能 (AST、ALT) の上昇、LDHの上昇、フェリチンの上昇、D-dimer の上昇などが認められます。

プロカルシトニンは症状がかなり悪化すると上昇してきます。

こうした血液検査は新型コロナ感染症の重症度や死亡率と関係があるものがあります。

 

 

胸部X線(レントゲン)

新型コロナ感染症の多くが肺炎を起こし悪化していきますが、肺炎は両方の肺に起こることが多く、肺炎像も通常の細菌性肺炎と異なっています。

胸部X線 (レントゲン) では、両肺にすりガラス様陰影があれば疑いますが、胸部X線だけで新型コロナ感染症を診断するのは困難です。

 

 

胸部CT

胸部X線よりも多くの情報が得られます。

新型コロナ感染症の特徴的な所見もあると報告されていますが、他のウイルス肺炎や間質性肺炎との鑑別が困難な場合があります。

異常所見がなくても新型コロナウイルスを除外できないし、逆に胸部CTだけで新型コロナを診断できるわけではありません。

 

 

胸部超音波検査

超音波検査による新型コロナ感染症の診断に使えるかどうか検討されています。

 

 

新型コロナ感染症の検査を受けるべき人

新型コロナ感染症の検査は、症状のない人がスクリーニングで受けるような検査ではありません。

まず、検査を受けるべき人は、新型コロナ感染症の症状のある人で、入院している人、医療機関や施設、救急関係、長期療養施設、更正施設などで働いている人、刑務所、シェルターに入っている人などです。

集団生活をしている人で症状のある人は検査を受ける必要性は高いです。

次に、集団生活はしていないが新型コロナ感染症の症状のある人も検査の対象になります。

後は、症状はないが新型コロナ感染者と接触のあった人、長期療養施設の住民などです。

新型コロナ感染症の症状は、発熱、咳、呼吸苦、悪寒、筋肉痛、味覚や臭覚の消失、嘔吐、下痢、あるいは咽頭痛などです。

 

 

検査上の問題点

検査はどれも感度と特異度というもので精度を表現します。

感度とは「病気がある時に陽性と判定される割合」で、特異度は「病気がない時に陰性と判定される割合」と定義されます。

感度が低いと、実際には病気があるのに検査では陰性と判定される「偽陰性」の人が増えます。

特異度が低いと、病気がないのに検査で陽性と判定される「偽陽性」の人が増えます。

従って、検査は感度と特異度の両方高い方が良いのですが、実際には、感度と特異度はどちらか一方が高くなると他方は低くなる、相反する関係があるので、両方とも高い検査は限られています。

検査は感度と特異度以外にも、有病率というものに影響されます。

有病率は、ある一時点において病気を有している人の割合です。

例えば1,000人に1人 (人口の0.1%) とかで表現されます。

この有病率によって検査結果は大きく影響されるのです。

例えば、感度70%、特異度99%というPCR検査を1,000人に1人の有病率の集団で行うと、検査陽性者のうち本当に病気のある人は6.5%にすぎず、ほとんどの人 (93.5%) は病気がないのにもかかわらず検査で陽性と判定されてしまいます。

今度は、同じ検査を10人に1人の有病率の集団で行うと、検査陽性者のうち本当に病気のある人は88.6%と大幅に増えますが、病気があるにもかかわらず検査が陰性になる人が3.3%になります。

症状のない人が検査を受けると偽陽性が増えることになります。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2020年6月1日号掲載)