金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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新型コロナウイルス感染症のワクチン (COVID-19 Vaccine) |
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新型コロナウイルス感染症COVID-19の勢いが、アジア、オセアニア、ヨーロッパなどでは収まってきましたが、アメリカ、ブラジル、ロシアなどでは収まる気配がありません。 6月18日現在で、世界の感染者数は848万人、死亡者数45万人、アメリカでは感染者数219万人、死亡数数11万8千人です。 その後にブラジルとロシアが続いています。 この3か国に共通しているのは、ロックダウンや積極的な対策を取らなくなった、あるいは取っていない、ということです。 このまま、新型コロナウイルスワクチンができるまで感染が続くような勢いです。 新型コロナウイルス感染症のワクチンがいつできるのか、そして効果がどれほどあるのかについては、現時点では確かな情報がありませんが、新型コロナウイルスワクチンについて現時点で分かっていることを解説したいと思います。
今後の新型コロナウイルス感染症の動向 感染症疫学の専門家の予想では、新型コロナウイルス感染症は一旦収まっても第2波、第3波といくつもの流行が襲ってくるとされています。 6割程度の人が感染して抗体ができる集団免疫の状態でないと、新型コロナウイルス感染症は終焉 (えん) しないのではないかという予想もあります。 いずれにせよ、新型コロナウイルスワクチンが、この感染症のパンデミック (世界的大流行) を終焉させる上で重要な鍵になるのは間違いなさそうです。
ワクチンの種類 感染症を予防するワクチンには、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイド、それに遺伝子組み換えワクチンの4種類があります。
<生ワクチン> 病気を起こす病原菌 (ウイルス) を弱毒化したワクチンで、病気にならずに病気に対する免疫反応をつけます。 麻疹 (はしか)、風疹、おたふくかぜ、水ぼうそうなどのワクチンが生ワクチンです。 生ワクチンは体に対してそのウイルスに対する抗体を作る液性免疫と、直接ウイルスを攻撃する細胞性免疫の両方の免疫システムを活性化するので、次に述べる不活化ワクチンより効果があり、効果も長期間持続します。 生ワクチンの課題は人体に対する安全性です。 安全性の評価のために、通常、開発に長い時間を要します。 生ワクチンの中には、免疫の低下した他の人に感染を起こしてしまうものもあります。
<不活化ワクチン> 不活化ワクチンは原因となるウイルスを殺した (不活化した) ワクチンで、免疫システムを活性化し、病原ウイルスと戦う抗体を産生して感染に備えます。 インフルエンザ、A型肝炎、狂犬病などに対するワクチンです。 不活化ワクチンは生ワクチンほど感染予防が強くない欠点があります。 また、何回かの接種が必要になります。
<トキソイド> 病原菌が産出するトキシン (毒素) の毒性をなくし不活化したトキソイドを使い、その免疫反応だけを利用したものです。 ジフテリア、破傷風など。
<遺伝子組み換えワクチン> 遺伝子組み換えによるRNAないしDNAを利用して免疫反応を惹起させるワクチンで、ワクチン製造に感染原因となるウイルスが不要です。
新型コロナウイルスのワクチン 新型コロナウイルスの正式名はSARS-CoV-2でSARSウイルスと近い関係にあります。 新しいワクチンを作るには、通常、数年から10年近くかかりますが、新型コロナウイルスの場合は、過去にSARS (重症急性呼吸器症候群) やMERS (中東呼吸器症候群) の時にワクチンを開発しようとしていた基礎があるので、それを利用しています。 新型コロナウイルスは表面にSタンパクという突起状のものがあり、これが人の細胞に付着して細胞内に侵入し、コロナウイルスを増殖します。 ワクチンはこのSタンパクを攻撃し、人の細胞に付着するのを防ぐのです。 他に、DNAを使ってウイルスに対する免疫反応を惹起するワクチンもあります。 いくつかのワクチンは、風邪を起こすアデノウイルスを弱くして新型コロナウイルスのSタンパク (スパイク) の遺伝子を組み合わせ、免疫反応を惹起しようと試みています。
新型コロナウイルスワクチンの開発 現在、世界中で120以上の新型コロナウイルスワクチンが開発されようとしています。 すでに治験段階に入ったワクチンもあります。ほどんどのワクチンは動物実験の段階で脱落します。 そして、治験に入って実用化するのは3分の1程度です。 第Ⅲ相試験の治験を終えるとFDA (食品医薬品局) とCDC (疾病管理予防センター) が治験のデーターを吟味して認可を与えます。 認可が下りた後でワクチンの製造に入りますが、ワクチンの接種期間中にもワクチンの安全性は継続的にチェックされます。 ワクチンを開発している製薬企業はまた、どのようにしてワクチンの大量生産を可能にするか検討しています。 アメリカだけで3億人分以上のワクチンが必要になるからです。 専門家の中には、新型コロナウイルス感染症は風邪やインフルエンザのように季節的にやってくるのではないかと考えています。 今開発中のワクチンは今回のパンデミックに間に合わないかもしれないですが、次回到来するパンデミックに間に合う可能性があります。
新型コロナウイルスワクチンのタイムライン 通常、ワクチンが開発されるのは数年を要し、いくつかの重要なプロセスを経て実施されます。 研究室で開発されたワクチンはまず動物実験が行われます。 3〜6か月かけて動物で効果と安全性を調べます。 次に、人間でワクチンの効果と安全性を確かめるわけですが、これには3段階ある臨床試験 (治験) として行われます。 第Ⅰ相試験では、人体に対する安全性を確かめます。 第Ⅱ相試験では、ワクチンの量や回数などと効果を調べます。 最終的に第Ⅲ相試験で多くのボランティアを使って、ワクチンの効果と安全性を確かめます。 新型コロナウイルス感染症の場合、第Ⅲ相試験は、新規患者数が多い地域で行うのが理想的ですが、実際の感染予防の効果を臨床的に評価する代わりに、抗体産出で評価する可能性もあります。 新型コロナウイルス感染症のパンデミックの脅威から、ワクチンの許可のプロセスが早められる可能性がありますが、どんなに早くても治験が始まって6か月以内に一般の人に実用化する可能性は少ないです。 現実的には1年以上かかるでしょうが、実際に新型コロナウイルス感染症に効果的なワクチンができるのかどうかも現時点では分かっていません。 もし、ワクチンの接種が許可されたら、世界中の人に行きわたるように製造が開始されますが、新型コロナウイルスに対して免疫のある人はほとんどいないので、おそらく最低2回の接種が必要になるのではないかと思われます。 ワクチンの効果が出てくるのは2回目のワクチンを接種後1〜2週間後からではないかと推測されます。
新型コロナウイルスワクチンの開発競争の現状 現在、アメリカのモデルナとイギリスのアストラゼネカが一歩リードしています。 アストラゼネカはすでに数億回分のワクチンの生産体制に入っています。 もし、ワクチンが有効であればすぐに市場に回せますが、ワクチンが無効や副作用が大きい場合はすべて無駄になってしまいます。 両者ともこの夏には治験第Ⅲ相が始まり、11〜12月には効果および安全性が判明し、数億回分が利用可能になる予定です。 6月初旬時点では、世界中で120社の開発中のワクチンのうち10社のワクチンが治験に入っています。 4社はアメリカ、5社が中国、そして1社がイギリスです。 各社によって違うアプローチが取られているので、何社かは効果と安全性のあるワクチンができるのではないかと期待されています。 各政府や慈善団体が巨額の援助をしているので、できたワクチンが、ワクチン製造会社の利潤なしで供給するように提唱されています。 現在開発中のワクチンで有力候補は、英オックスフォード大とアストラゼネカのウイルスベクターワクチン (アデノウイルスベクターを使ったワクチン)、米モデルナのmRNAワクチン、中国カンシノ・バイオロジックと北京バイオテクノロジー研究所のウイルスベクターワクチン、独ビオンテックとファイザーのmRNAワクチン、米ジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクターワクチン、米ノババックスの組み換えタンパクワクチンなどです。 日本では、アンジェスと大阪大がDNAワクチンを共同で開発中です。 |
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(2020年7月1日号掲載) |