小腸内細菌異常増殖症 (SIBO = Small Intestinal Bacterial Overgrowth)(2020.9.1)

kim top 
 
dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


ご質問、ご連絡はこちらまで

       
column line
 

小腸内細菌異常増殖症

(SIBO = Small Intestinal Bacterial Overgrowth)

       
       

腸内細菌異常増殖症 (SIBO) は、小腸内で細菌が異常に増え、それによって様々な腹部症状や栄養不足などを起こす疾患です。

通常、大腸と違って小腸には多くの細菌が存在しないのですが、手術などをきっかけに細菌の異常増殖が起こります。

 

 

腸の環

小腸は人体の消化管の中で最も長く、6m以上もあります。

小腸内で食べ物が消化酵素と混ざり、栄養素が小腸の粘膜から吸収されます。

通常、小腸は内容物の移動が早いのと、胆汁が存在するために、大腸と違ってあまり細菌が存在しません。

また、小腸と大腸の間には回盲弁が存在し、大腸の内容物や常在菌が小腸に逆流しないようになっています。

このように、胆汁 (胃酸が胆汁の分泌を刺激) の存在、小腸の蠕 (ぜん) 動運動、回盲弁の存在によって小腸で細菌の異常増殖が起こりにくいのですが、逆に言えば、こうした防御システムが阻害されると、小腸に細菌が異常に増殖することになります。

 

 

SIBOの原

胃酸を中和させる胃薬を長期服用していると、胃酸が中和され、胆汁の分泌が少なくなり、細菌の増殖を抑えることができなくなります。

胃潰瘍、胃がんの手術で小腸に器質的変化 (構造上の変化) が生じたり、いくつかの病気のために小腸の蠕動運動が低下すると、食べ物や老廃物が小腸を通過するのに時間がかかり、うっ滞を生じます。

SIBOの原因になる他の疾患やSIBOを伴う疾患としては、胃の切除術や肥満での胃バイパス手術、小腸内や小腸周辺での器質的異常 (例えば、小腸の周りにある傷痕や癒着など)、小腸憩室症、クローン病、放射線治療の既往、全身性強皮症、セリアック病、糖尿病、回盲弁のダメージ、腸閉塞など。特に、過敏性腸症候群との関連性は高いようです。

 

 

SIBOの症状と合併症

SIBOの症状としては、食欲不振、腹痛、嘔気、お腹の張り、食後の不快な膨満感、下痢、便秘、体重減少、栄養失調、おならなどがあります。

合併症としては、主要栄養素 (脂質、炭水化物、タンパク質) の消化不良。胆汁が細菌によって分解され、脂肪吸収の阻害により下痢が起こります。

また、脂肪吸収障害によって、ビタミンA、D、E、Kの脂性ビタミンの吸収が完全にできなくなります。

細菌による産生物は炭水化物やタンパク質の吸収を阻害します。

それにより下痢、栄養失調、体重減少が起こります。

細菌の異常増殖のためビタミンB12が欠乏します。

その結果、筋肉が弱くなり、疲労、手足のしびれ、さらには精神的障害も起こる可能性があります。

カルシウムの吸収障害は骨粗しょう症や腎結石の原因になります。

 

 

SIBOの診断

SIBOの診断には、主に呼気テストと小腸液吸引培養があります。

それぞれ利点と欠点があります。

呼気テストは簡単で侵襲性がありません。

ただ、特異性に欠けるので、テスト結果が陽性でも実際に病気があるかどうかの精度があまり高くありません。

このテストでは、ブドウ糖など (他にラクツロースやキシロース) を飲んで、後に水素やメタンなどを呼気で測定します。

水素やメタンの急上昇は小腸での細菌の異常増殖を示唆するのです。

もう一つの小腸液吸引培養は、内視鏡を口や鼻から挿入し、小腸から直接小腸液を採取して、それを培養測定するものです。

小腸の吸引液1cc当たり10万個以上の細菌があればSIBOの診断になります。

この方法は呼気テストより精度は高いですが、内視鏡を使って行うので簡にできないのが欠点です。

の検査としては、血液検査でビタミンの欠乏を調べたり、便で脂肪の吸収障害を調べる方法があります。

また、小腸の器質的変化を調べるために、CT、MRI、あるいはカプセル内視鏡などを使うこともあります。

 

 

SIBOの治

原因になる病気のある時は、それをまず治療します。

器質的異常のある時は、それをまず是正する必要があるかもしれません。

SIBOの治療は、主に経口抗薬にる治療と食習慣の改善によるものとがあります。

経口抗菌薬による治療はSIBOの治療で最も一般的な治療法ですが、再発も少なくありません。

1〜2週間程度の抗菌薬を服用するだけですが、再発がある場合、1か月に1週間の抗菌薬を定期的に服用する方法もあります。

ただし、この方法は耐性菌発生の可能性が出てきます。

また、抗菌薬は悪い細菌を死滅させますが、正常な常在菌の腸内細菌も死滅させるので、それが原因で下痢などの症状が生じることがあります。

治療に使う抗菌薬としては、テトラサイクリン、アモキシシリン/クラブラン酸 (Augmentin)、メトロニダゾール、ネオマイシン、セファレキシン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール (Bactrim)、リファキシミン (Xifaxan) があります。

食習慣の改善には、乳酸菌などのプロバイオティックスを積極的に摂取します。

特定の炭水化物を避けるダイエットも提唱されています。

炭水化物と繊質を避け脂肪分を多く取るダイエット法は、症状の改善に貢献するかもしれないですが、脂肪分を多く取ることで心筋梗塞などのリスクを高くするので要注意です。

特定の栄養素が不足している場合は、栄養面での治療が必要です。

ビタミン、カルシウム、鉄分などが不足している場合はサプリメントを取ります。

ビタミンB12は、消化管からの吸収が悪い時は筋肉注射での投が必要です。

小腸へのダメージがあると乳糖の消化が障害されているかもしれません。

その場合、乳糖を含む食品を避けるか、ラクターゼ (乳糖分解酵素) 製剤を使います。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2020年9月1日号掲載)