成長マインドセット(2017.10.1)

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    美甘 章子

心理学博士

広島大学教育学部・大学院から教職を経て渡米。
心理学博士として医療や教育現場で幅広く
臨床経験をつんだ後開業。
元みなと学園コンサルタント。
現在、臨床心理ドクターとして
臨床とコテ
ンサルーション(エグセキュティブ・コーチング、
産業心理、スポーツ心理等)で日米両国において幅広く活動。

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成長マインドセット

       
       

マインドセットとは

考え方の傾向やパターンのことをマインドセットと言います。

ポジティブなマインドセットの人は、物事に関して楽観的な捉え方や前向きな捉え方をすることが多く、逆にネガティブなマインドセットの人は、同じ事象に関しても悲観的に捉えたり、もう既に起こってしまったことでどうすることもできないのに、ネガティブな思考や感情から抜けきれないことも多い、という具合です。

 

 

成長マインドセットとは

スタンドフォード大学のキャロル・ドウェック教授らが提唱する成長マインドセット(Growth Mindset)(日本では「やればできる」と訳されて紹介されています)は、近年アメリカの教育現場でも取り入れられることが増えています。

成長マインドセットは、ただ単にポジティブとか楽観的な考え方ではなく、ポジティブであり成長につながる考え方の傾向やパターンです。

 

 

成長マインドセットから出てくる思考の例

例えば、子供が算数のテストで分数の計算がよく分からず、思ったような良い点が取れなかったとします。

特に、一生懸命やったのに思うような結果が出なかった時には、「テストができなかった」「僕は算数が苦手だ」「私は算数嫌い」という思考が出やすいのですが、それに対して「『今はまだ』分数の計算をマスターするところまでいっていない」「『まだ』もっと分かるようになる余地がある」「『今は、もう少し』ヘルプが必要」「『まだ』もっと練習すれば、上手に分数の計算ができるようになる」という考え方ができると、成長に向けてのモチベーションも上がり、自己像もネガティブにはならないで済みます。

これは、学業だけでなく、運動でも健康でも仕事でも親業でも人間関係でも同じことが言えます。

仕事や家事や子育て(やその全て)で忙しい大人が、「ああ、自分はなんて効率が悪いんだろう。ダメだな。」と繰り返し感じて自己嫌悪に陥るのと、「たくさんのことをスムーズに効率よくやりこなすのは、得意なことではないけど、もっと工夫ができるだろう」と考えるのでは、全然違います。

 

 

『今はまだ』の効力

アメリカのある高校では、成績表にDやFをつける代わりに「Not Yet (今はまだ)」という評価をつけるそうですが、このような考え方が習慣になると、そこから繋がってくる思考はポジティブでクリエイティブな方向に行く可能性が大きいのです。

日本の伝統的な価値体系の中では、何かをやり残したままにしておくのは良いこととされず、「今はまだ」という考え方は自然には出てきません。失敗を見直して反省したり、能力不足を認識して、それを補うための最大限の努力を今すぐするのが良いと考えがちだからです。

もちろん、自分の苦手な部分や努力不足などを認識したり反省したりして、目標に向けて改善や進歩の努力をすることは大事ですが、人間には必ず得意不得意があります。走るのが遅いとか、算数の計算がすっとできないとか、作文を書くのが苦手とかナチュラルに上手にできないことに関して、子供達は成長して大人になるまでの過程の中、無数の場面で「これができない、自分は苦手、君は努力が足りない、お前はやる気がない」などのあらゆるメッセージを内面化して育つことが多いのです。このようなネガティブなメッセージは、内面化され自己像の一部となっていくので、大人になると一層ネガティブ思考や苦手意識やモチベーションの低下や何かを毛嫌いするのが続きます。

「『今はまだ』(できない)、でも努力や解決の方法はあるに違いない」と思えるようになると、モチベーションも上がりますし、何かを学習したり練習したり習得したりしようとする時に、より自分にあった効果的なやり方を見つけるためのクリエイティビティも高まります。

 

 

成長マインドセットの教育

今日、日本でもアメリカでも従来の中学や高校の教育課程や形式に合わず、取り残されたり、不登校になったり、うつや不安症になったりするティーンは少なくありません。

アメリカでは、義務教育の中でホームスクーリングやオンライン授業がメインの学校など様々な形式での教育のオプションが増えてきています。

日本では、フリースクールなどはありますが、公教育との連携が不足していることもあり、今後は多くの特性を持った児童生徒にあったような、より充実した教育環境の多様性が必要です。

早いスピードで変化していく世界に対応できるためには、どれだけ数学問題が早く解けるかとか、歴史上の人名や年号や事象をどれだけ暗記しているかより、「経験したことのない新しい場面に遭遇した時、どのように答えを見つけるか」という力が今後ますます必要となり、「成長マインドセット」教育は不可欠なのです。

 

 
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。
 
 
(2017年10月1日号掲載)