美甘 章子 心理学博士 広島大学教育学部・大学院から教職を経て渡米。 |
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家族の力動関係 |
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家族の力動関係とは 例えば父母と子供2人の4人家族だったとしましょう。 その家族内の関係(夫婦間、親子間、きょうだい間、家族全員)は、ただ仲が良いとか悪いとか、信頼があるとかないとかの一元的なものではありません。 4人の家族は複雑に絡み合っている関係にあり、赤ちゃんのモビールでクマさんを引っ張ったらゾウさんが浮くと同時に他もつられて浮き上がり、うさぎさんを押したらみんながグルグル回るような感じで、全体に見えないプレッシャーがかかったり、一人につられてみんなが影響を受けることが多いのです。 例えば、父は仕事が忙しすぎて あまり子供に接する時間がない、母は 駐在や他の事情で家事子育ての一切をやりくりしなければならずフラストレーションが溜まっているとします。 子供は、英語での環境や新しい学校などに馴染めず、腹痛を訴えたり、イライラして口答えや暴言が多くなり、学校に行くのを嫌がるようになってしまったとしましょう。 一般的には、ここで、親が「子供はなぜ学校に行きたがらないんだろう?」と悩み、叱ってみたり、「スマホ買ってあげるから」と褒美を先に約束したりするかもしれません。 もし、暴言や暴力が出ている場合は、お父さんも仕事を早めに切り上げて対応せざるを得ないこともあり、ますます職場でのストレスが高まるかもしれません。 このような状況があった場合、この子供だけに問題があるということはまずありません。 実際には、表面には現れていない色々な層の葛藤や問題があるのです。 家族システム学的に見ると、多くの場合、この子供は家族の機能不全やプレッシャーを背負って、ある意味での「症状」を提示しているのです。
家族の機能不全の要素 家族の機能不全とはどのようなものでしょうか。 例えば、夫婦間では、信頼関係がない、気持ちをわかってもらえずフラストレーションが溜まっている、過去に傷ついたことを根に持っている、お互いを尊敬できなくなっている、片方が主張を通すことが多く協力関係にない、思考パターンが全く違うためコミュニケーションがうまくいかない、育った環境や文化の違いから互いの価値観を尊重できず納得いかない言動を自分への仕打ちと取ってしまう、などです。 親子間では、夫に注いでも見返りのない献身を子供に注ぎすぎている、子供が実権を握り親が振り回されている、親子が友達関係になっており親が線引きできない、親が自分の悩みや叶わなかった夢を子供の学業やスポーツの成功で解決または達成しようとしている、親が自分の病気や仕事や高齢者・障がい者のケアーなどに疲れ果てていて子供は精神的にほったらかしになっている、日米や時代の違いなど親子が育った環境が違うのに親の文化価値を押し付けようとして子どもが文化の狭間で混乱または反抗する、などです。 きょうだい間では、上の子がしょっちゅう叱られるのを見て下の子は「どうしたら見つからずに(本来なら叱られそうなことを)自分の思うようにできるか」を学ぶ、学業やスポーツが得意な方をみてそうではない子が無能感を増す、親に他のきょうだいの分まで期待をかけられている子がプレッシャーとつかみどころのない罪悪感を感じる、親からのプレッシャーを受けた上の子が鬱憤ばらしに下の子を牛耳る、親の機嫌をとるのが得意な子にそうでない子がやっかんで癇癪を起こしたり意地悪したりする、長年にわたるきょうだいの暴言や暴力で非常に歪んだ自己像が育つ、などがあります。 また、核家族内だけではなく、親戚や姻戚からの影響もあります。 例えば、長男である父に期待をかけすぎている父方の祖母が子育てに口を出しすぎて、嫁である母は長年恨みを持っている、母方の実家との関係が強すぎて父方の親が滅多にないチャンスに孫を甘やかせ金銭や物質を与えすぎ嫁への不満や批判も暗に伝える、祖父や曾祖父のトラウマ体験(戦争、リストラ、移民、事故、事件など)が無言のまま親の代に影響し、それがまた子の代に影響する(例えば、ホロコーストサバイバーの子孫である父がクリスマスツリーやプレゼントを頑なに拒否するため、宗教観ではなくホリデーを楽しみたい子供が疎外感を感じるなど)。 もちろんポジティブな世代間の影響や家族内の力動関係もあります。 このような力動関係は非常に複雑で自身では理解しにくいのですが、家族関係で起こっていることを表面だけで解釈してリアクションすることは、機能不全を悪化させることになりかねないので、物事には一見明らかでない要因や意味があることをまず心に留めておきましょう。 |
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。 | |||
(2017年5月16日号掲載) |