自分達 対 他の人達(2020.9.16)

mikamo top
 
    美甘 章子

臨床心理医。医療や教育現場て幅広く臨床経験を積み、みなと学園コンサルタントも務めた。

エグゼクティブ・コーチング、スポーツ心理、精神科薬相談、心理療法、精神鑑定、教育心理アセスメント、発達障害相談など日・欧・北中南米などグローバルに従事。

「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」著者。

平和教育団体San Diego-WISH代表。


ご質問、ご連絡はこちらまで

       
column line text932
 

自分達 対 他の人達

       
       

アメリカの新型コロナウィルス新規陽性者数は未だに桁違いに多く、安全なワクチンを多くの人が受けられるようになるまで、当分ウィルスの存在と付き合う生き方をしなければなさそうです。

6月に一旦新規陽性者数が減少し落ち着いたかのように見えた日本でも、7月初めに東京をはじめとして3桁の新規陽性者数が連日発表されるようになり、多くの日本人が緊張と切迫した不安感を感じている様子でした。

7月の記録的大雨による災害や、それに対する警戒なども相まって、社会全体の緊張感が高まっているように思えました。

そんな中で、数週間新規陽性者が出ていなかった地方では、東京都の新規陽性者数が100人台、200人台、300人台と急激に増えるに連れて、「東京は危険なところ」というイメージが強まっていったように思えます。

特に、何週間かぶりの県内の新規陽性者が東京へ出張に行って帰って来た人だったとか、東京から来た人と接触歴があったという県では、東京への出張禁止令や東京からの来客との面会禁止令が出た会社もあったそうです。



移動自粛と特定地域の人排除の違い

確かに、ウィルスは消えてなくならない現状では、どこの国でも、ウィルスをもらわない・広げないことを最優先して、不必要な移動は避けるのが自分のためにも社会全体のためにも賢明です。

同時に、各個人が意識を高めて、科学的根拠に基づいて、対人距離を保つ、大勢が触ったものをなるべく直接触らないようにする、手指をこまめに洗い消毒する、外出中手を洗う前に目鼻をこすらないように気をつける、マスク着用などを徹底するなどの自己責任を持った行動は非常に重要です。

1日あたりの新規陽性者数の多いある特定の地域に住んでいても、上記のことを徹底して日常生活における公共の交通機関利用をなるべく避けるように工夫し、自宅勤務などに徹して感染リスクを極力避けている人もいれば、地方の新規陽性者数が少なめの地域に住んでいても、以前と変わらず頻繁に会食をし同じ大皿のものを自分の箸でつつき、近くにいる人に大声で話してつばなどを撒き散らし、重要書類でなくても押印の慣習に疑問も持たずに紙の書類を回し、銀行や役所へわざわざ行かないとできない手続き強要を見直しもしない人もいます。

日本では、100万人あたりの検査数が桁違いに低いレベルに留まっていますので、実際にウィルスがその地域にどれくらい蔓延しているかは、はっきりしません。



自分達とは違う人たち

大都会へのある意味では偏見とも言える姿勢が、前述のように災害の危険性に対する不安感と同時に強まったように思えました。

「自分達は安全なのに、よその違う人たちが来ることによって、自分達の生活が脅かされる」とでも言わんばかりに。

これは、戦後、広島や長崎の被爆者、ひいては被爆二世が大都会に出て差別されたことがあった現象と似ているように思えました。

広島や長崎では、被爆者や被爆二世の人口に占める率が圧倒的に高いこともあり、大都会や他の地域であったと報告される結婚や就職などに関しての差別はあまりなかったと思われます。

確かに、放射能の人体に直接与える影響や、何十年後どのような影響が出るかということはわかっていませんでしたし、今でも全てが解明されているわけではありません。

ですから、未知のものが怖い・怖いものには関わりたくないという気持ちが先行したのではないかと推察できます。

「自分達」は「〇〇だから(または〇〇でないから)」大丈夫だけど、「よその人たち(または、どこどこの人たち)」は「△△だから (または△△でないから)」関わらない方がよい、という捉え方は、多くの人間の無意識的な習性とも言えます。



見えない物への恐怖

私は、ウィルスと放射能は共通点があると思っています。それは、見えない物が自分や自分に大事な人たちの健康や生命を脅かすかもしれないという点です。

もちろん、病原菌や感染力の強いウィルスや高濃度の放射性物質に無闇に近づくのは危険ですが、人と人との関係性なしではやっていけない社会の中で、ある一定地域の人たちが全部危険であるかのような思考や行動は非科学的、非論理的です。

される新規陽性者数だけではなく、人口密度・人口あたりの検査数・死者数・医療体制・その人の意識レベルや生活状況なども踏まえて、論理的思考と科学的常識と人間愛を根底とした決断や行動を多くの人ができたら、十把一絡げに「自分達 対 他の人たち」と区別や差別しなくてもよい生き方ができるのではないでしょうか。

 
blue line932
 
「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。
 
 
(2020年9月16日号掲載)