新型コロナ感染症の治療法=下=(Treatments for COVID-19)(2021.6.1)

 

kim top 
 
dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


ご質問、ご連絡はこちらまで

       
column line
 

新型コロナ感染症の治療法=下=

(Treatments for COVID-19)

       
       

新型コロナ感染症に対する治療薬

 

<抗ウイルス薬>

抗ウイルス薬は、新型コロナウイルスのヒト細胞への結合、侵入、増殖などを抑えるのですが、現在アメリカで認可されているのはレムデシビル (Remdesivir) しかなく、それも入院患者さんだけに適応です。

レムデシビルは、入院している人で酸素を投与されている以上の人、あるいは、入院して酸素は投与されていないが重症化する可能性のある人に使われます。

レムデシビルは、ウイルスの増殖に必要なRNAポリメラーゼという酵素に結合して、ウイルスの複製、増殖を阻害します。

副作用は嘔気 (おうき) などの胃腸症状、肝機能障害、過敏反応などがあります。

クロロキン、ヒドロキシクロロキンは推奨されていません。

クロロキン、ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬で、トランプ前米大統領がゲーム・チェンジャー (形勢を一変させるもの) だと記者会見で発表して有名になりましたが、これまでのいくつかの臨床試験では有効性が示されていません。

ヒドロキシクロロキンは関節リウマチなどの自己免疫疾患にも使われます。

 

<ロピナビア、リトナビア、他のHIVプロテアーゼ阻害薬>

これまでの臨床試験では明らかな効果を示していないので、ロピナビア、リトナビアを始め、どのHIVプロテアーゼ阻害薬も推奨されていません。

 

<イベルメクチン>

十分のデータが無いので、使用に関しては推奨も反対もされていません。

元々、寄生虫病の駆虫薬としてノーベル賞受賞者の日本人研究者大村智氏によって開発された薬ですが、FDA (米食品医薬品局) には抗ウイルス薬としては認可されていません。

イベルメクチンは、ヒトの細胞の抗ウイルス作用を高めるだけでなく、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質がヒトの細胞に結合するのを妨げるのではないかと考えられています。

 

<新型コロナウイルス抗体治療法>

新型コロナ感染症で回復した感染者の血液には新型コロナウイルスに対する抗体が存在しています。

その血漿 (けっしょう) を用いる治療法です。

委員会は推奨も反対もしていないですが、FDAは入院患者に対する緊急使用許可を出しています。

 

<モノクローナル抗体による治療>

バムラニビマブ (bamlanivimab) とエテセビマブ (etesevimab) の組み合わせ、または、カシリビマブ (casirivimab) とイムデビマブ (imdevimab) の組み合わせの治療が、軽症または中等症で、重症化の可能性のある人が対象になります。

重症化の可能性のある人とは、肥満、慢性腎疾患、糖尿病、免疫低下の人、65歳以上、55歳以上で、心血管系の病気、高血圧、COPDなどの慢性肺疾患のある人などです。

これ以外の人はモノクローナル抗体の治療対象にはなりません

バムラニビマブの副作用としては、嘔気、下痢、めまい、頭痛、かゆみ、嘔吐などがあります。

モノクローナル抗体は、新型コロナウイルスのSタンパク質を攻撃し、ヒトの細胞の受容体であるACE2と結合しないようにします。

感染して症状が始まって10日以内に治療を行います。12歳以上で体重40キロ以上の人が対象です。



<免疫グロブリン>

新型コロナ感染者の回復者の血漿由来の免疫グロブリンは、新型コロナ感染症のウイルスの増殖を抑えたり、炎症反応を抑える効果が期待されますが、十分な臨床試験のデータがないため委員会では推奨も反対もしていません。

 

<ヒト間葉幹細胞>

ヒト間葉幹細胞が、急性期での肺に対する損傷と細胞性炎症反応を抑える効果が期待されています。

委員会はその使用を推奨していません。

 


<免疫調整剤>

デキサメサゾンの使用は委員会で推奨されています。

バリシチニブ (baricitinib) とレムデシビルの組み合わせ使用も推奨されています。

また、トシリズマブ (tocilizumab) とデキサメサゾンの組み合わせも、特定の感染者に推奨されています。

 


<ステロイド>

デキサメタサゾンの使用は委員会で推奨されていますが、デキサメタゾンが無いときは、他のステロイドが使用可能です。

デキサメタゾンは、酸素が必要な入院感染者の症状を改善する効果があります。

特に、人工呼吸器につながれている人には効果があります。

デキサメタゾン6mgに対し、プレドニゾン40mg、メチルプレドニゾロン 32mg、ハイドロコーチゾン160mg相当です。

副作用は、高血糖、易感染性、精神的影響などです。

 

<インターフェロン>

抗ウイルス作用を持つサイトカインの一種です。

委員会ではその使用は推奨されていません。

 


<インターロイキン1阻害薬>

アナキンラ (anakinra) のようなインターロイキン1阻害薬は、新型コロナ感染症でサイトカインが増加する、サイトカイン放出症候群のような状態で効果が出るのではないかと考えてられていますが、十分な臨床試験のデータが無いため、使用に対する推奨はされていません。

 


<インターロイキン6阻害薬>

インターロイキン1阻害薬と同様、サイトカイン放出症候群を抑えることが期待されています。

今のところ、新型コロナ感染症に対するインターロイキン6阻害薬の使用はFDAに許可されていません。

サリルマブ (sarilumab)、トシリズマブ (tocilizumab)、シルツキシマブ (siltuximab) などがあります。

 


<キナーゼ阻害薬>

バリシチニブ (baricitinib) があります。

委員会は入院感染者でステロイドが使えない患者さんには、バリシチニブとレムデシビルの組み合わせを推奨しています。

 

 

<抗血栓療法>

入院していない感染者への抗血栓療法は薦められていません。

入院感染者は、今まで通りの下肢深部血栓症予防の抗血栓療法は薦められています。

入院前からの疾患で抗凝固薬や抗血小板薬を内服している感染者は、入院後もそれを継続します。

 


<サプリメント>

ビタミンD、ビタミンC、亜鉛などのサプリメントに関しては、委員会は、十分なデータが無いので、推奨も反対もしていません。

 



ワクチン接種を

 

新型コロナ感染症に対し、効果的な治療法がほとんどなく、軽症・中等症の感染者に対しては、インフルエンザのように経口抗ウイルス薬も存在しないので、一番の対策法はその予防でしょう。

幸いなことに、新型コロナ感染症に対してはいくつものワクチンが存在するので、ワクチン接種することが最大の予防であり、また、治療の必要性を最も大きく下げる手段になります。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2021年6月1日号掲載)