「財政の崖(Fiscal Cliff)」の回避法と税務上のポイント (その2) (2013.3.1)

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nagano_face.jpg   永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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「財政の崖(Fiscal Cliff)」の回避法と税務上のポイント (その2)
 

オバマ大統領は1月2日、減税失効と強制的な歳出削減によるダブルパンチ、「財政の崖」の回避に向けた法案に署名しました。

すでに米議会の上下両院は1月1日に法案を可決しています。

この法案により、年収$450,000を下回る世帯を対象に所得税などの減税が恒久化されます。

また、財政再建を目的に法制化され1月2日に始まる予定だった強制的な歳出削減は、開始が2か月遅れることになりました。

さらには失業保険給付を1年間延長することなども決まりました。
 

今回は、前回 (2月1日号) に引き続き、土壇場で回避された 「財政の崖」 の税務上の影響について考察したいと思います。
 

 

 

成立した合意の主なポイント
 

④代替ミニマム税 (AMT)
 

AMTとは、一定の控除額以上の所得に対して最低限28% (一部は26%) の課税がされるよう通常の所得税とは別に税額を計算するシステムである。

1969年の導入以来、租税上の優遇措置等により、通常の所得税の計算によると極端に実効税率が低くなるような場合の補正措置として機能してきた。

当初は高額所得者に対する課税を想定しており、AMT計算上の所得控除額 (AMT exemption) もそれに対応して設定されていたが、インフレ調整条項はなかった。

そのため、いわゆる “AMT-Patch” を毎年度議会が議決して、AMT exemption を引き上げることにより、中間所得層に代替ミニマム税が掛からないよう調整してきた。

2012年については未だこの AMT-Patch が制定されていなかったため注目を集めていたが、今回このAMT-Patch がインフレ調整条項付きで恒久化されることとなった。

2012年については夫婦合算申告$78,750、独身$50,600のAMT-Patch額が2012年1月1日に遡って適用される。
 

 

⑤子女税額控除 (Child Tax Credit)
 

年度末において17歳未満の適格扶養子女がいる場合に税額を控除できる、1人当たり$1,000の子女税額控除が恒久化された。(控除しきれない場合のリファンド規定については2017年まで延長)
 

B. 給与税(Payroll Tax)
 

オバマ政権になってから実施された減税策である。これまでは、社会保険税 (Social Security Tax) の従業員負担税率が6.2%から4.2%に軽減されていた。この軽減税率が2012年度末をもって終了、2013年からは6.2%の社会保険税が源泉徴収される。先月号でも触れたように、この減税の失効についてはあまり議論にならなかったが、影響する範囲は広く、2013年1月からは多くの人にとって2%の負担増となる。なお、2013年の社会保険税の課税報酬額上限は$113,700である。
 

 

C. 遺産税と贈与税(Estate and Gift Tax)
 

2012年12月31日より後に死亡した納税者の遺産について、現行の遺産税と贈与税の課税控除金額である$5,000,000が保持されたが、税率は現行の最高35%から最高40%へ上昇した。2012年の控除金額はインフレーション調整により$5,120,000となっていて最高35%の税率で課税される。なお、以上は米国市民を前提にしており、グリーンカード保持者やその他のビザを所有する者で、日本国籍を持つ者はこの限りではないので注意を要する。
 

 

D. 法人税(Corporate Tax)

法人税でも研究開発費控除やボーナス減価償却、そして内国歳入法179条 (Section 179) 適用資産の控除上限額の延長等、数多くの控除や規定が2013年度末まで延長されたが、紙面の都合上ここでは割愛する。
 

 

E. その他

失業保険給付 (Unemployment Benefit):そのままでは2012年末で打ち切りとなることになっていた長期失業者向けの失業保険給付が1年間延長された。
 

 

 

今後の課題
 

以上、見てきたように、中間層までの納税者に対してはブッシュ減税が延長された形になっています。

最も増税の影響が大きいものは、オバマ政権時代に行われた給与税2%減税の終了かと思われます。

この意味では、多くの納税者にとって 「財政の崖」 の一要素とされた増税は最小限で収まったと言えます。
 

しかし、アメリカ経済全体として見ると、「財政の崖」を一旦回避するにはしたけれど、予算の強制削減については2か月執行を猶予されたに過ぎません。

米財務省は「今後2か月で政府の債務総額が法定上限に達し、上限が引き上げられなければ、デフォルト (債務不履行) に陥る恐れがある」 と警告しています。 

今後も暫く 「財政の崖」 が米国を悩ませそうであり、行方を注視する必要がありそうです。


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
 
(2013年3月1日号掲載)

 

 

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