呉茱萸湯(2012.9.1)

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son_new8.jpg曽 碧光

米国中医薬研究所所長

1932年台湾に生まれる。
東京大学農芸化学修士、米国カンサス大学微生物学修士、東京大学薬学博士、 元米国コネチカット大学病理学助教授、第1 回世界中西医結合大会審査委員、セント・エリザベス病院 (ボストン) 筋ジストロフィー主任研究員、ドライ・アイ眼科研究所生化学顧問、元米国漢方研究所所長、現米国中医薬研究所所長。


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呉茱萸湯

Q : 偏頭痛によく使われている呉茱萸湯について詳しくお教えください。

 

A :   呉茱萸湯は漢方のバイブルともいわれている 『傷寒論』に記載されており、呉茱萸、人参、大棗、 乾生姜の4つの生薬から構成されています。

呉茱萸湯は発作性の激しい頭痛があり、嘔吐を伴うことがある症状に使用されていることが多いので、こういう症状がよくある偏頭痛には頻用されているのは勿論、一般の常習頭痛にもよく使われています。

また、頭痛のない頑固な嘔吐やしゃっくりにも使用されています。

一般には、胃腸が冷えている体力の落ちた人で、嘔吐、頭痛、もたれ、みぞおちの重圧感、よだれ、下痢、胃部に溜まった水の音がするなどの症状にも用いられています。

胃酸過多症、尿毒症、蛔虫症などにも効果的です。

呉茱萸湯は偏頭痛によく使われている漢方ですが、治療効果を高めるために、他の鎮痛作用を持つ葛根湯または釣藤散と併用することが多くなりました。

これは2つの漢方の鎮痛作用の相乗効果をねらったもので、この相乗効果によって治療効果が早く上がるので、患者に喜ばれています。

1976年に日本で漢方が正式に健康保険薬として大学病院やクリニックで使われるようになってから、漢方の速効性を高めるために2つ以上の漢方を併用することが多くなりました。

その例として、阻害因子によってインスリンの利用が悪くなって起こるタイプ2糖尿病の治療に、インスリン阻害因子を抑制する八味丸と血糖降下作用のある減肥湯を一緒に使うことによって治療効果を高めています。

また、八味丸は糖尿病患者によく起こる糖尿病性腎症の予防に役立つので、一石二鳥です。
 

その他の例として、小児の膀胱炎治療に猪苓湯と免疫増強効果のある霊芝人参黄耆湯の併用が猪苓湯の単独使用よりはるかに優れた効果を発揮しています。

これは、未だ免疫機能が完備していない小児の治療効果を上げるために免疫力を増強する必要があるからです。

免疫力の低下している高齢者の膀胱炎治療にも、この両漢方の併用が必要です。

西洋医学的診断、 漢方医学的治療がかなり一般化した今では、薬理学的観点からの漢方治療法への傾向もだんだん強くなっているように思えます。

 
(2012年9月1日号掲載)

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